教育社会学研究
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児童集団分析の一つの試み
自己概念の「安定性」の点から
横田 澄司
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1962 年 17 巻 p. 74-88,en246

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抄録

本研究の結果は、児童の行動力の主体は自己概念という枠組を通してなされるだろうという点から、対人関係の問題を自己概念という媒介変数を導入することにより検討しようとした。特に他の児童と相互関係にある時、比較的、友好的な関係の場合は、自己概念の上にも「安定性」が存在するであろうと仮定し、また「安定性」を求めて他の児童との関係をもつと考えた。これはある児童が、他の児童から認知されていると思われる自己評価は、Codeyのいう「鏡に映された自己」であり、その児童の「社会的自己」である。これが現実の対人関係における自己評価との関係で「安定性」を検討してみた。
「安定性」が高まるということは、その児童の自己概念が望ましく変化することであり、児童集団内の対人関係において児童が協力的な関係を維持しようとする傾向を示すものである。「安定性」の変数に関して、基本的欲求度 (Positive vs Negative) および社会階層 (上、中、下) に応じて直接的な効果としては表われていないが、分散分析の上で交互作用として相互に影響し合っていることは明確であった。ただ基本的欲求度もPositiveな児童にのみ予測された方向に差異をみた。
以上を観点をかえて述べるならば、児童の安定性は、(a) 児童の自己概念に働く内的な影響力、(b) 各児童に対して相互影響の過程において相互に相手の児童の認知に変化を及ぼす外的影響力の二つの効果を理解することが可能である。こういった点から効果の差異から異なった人間関係を生み出すのである。
児童の人間関係を理解するために「安定性」を強調したが、それはあくまでも現実の児童の相互関係をより理解するためのもので、-つの試みである。ただ教育的な配慮として、指導の上で児童自身の「安定性」の質をそのまま認めるわけにはいかない場合がある。ただこういった質の「安定性」につかって児童は望ましい人間関係をもって欲しいという時、まずその「安定性」の質から教育学の出発点として、われわれは始めなければならないのかも知れない。

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