2022 年 80 巻 4 号 p. 219-228
骨粗鬆症性骨折は,多額の医療費・介護費用を要する疾患である。近年,骨折予防のエビデンスを持った治療薬が多数開発されており,高リスク者に対する使用はおおむね正当化される。しかし医療費は有限の資源であり,それを適正に配分するという観点からは,低~中リスク者に対する高額な薬剤使用には問題がある。
ビタミンD欠乏により,くる病・骨軟化症が起こるが,より軽症の不足であっても,骨折リスクとなる。一方でビタミンD不足者の割合は極めて高い状況にある。ビタミンD不足が骨折リスクであるとの観察研究,ビタミンDにより骨折が抑制されるとの海外からの介入研究は多数報告され,ビタミンD介入による骨折発生数減少は,介入費用を大きく上回る骨折関連費用の削減となることが示されている。またビタミンDには,筋力維持による転倒防止,感染症や一部のがんのリスク減少などの効果も報告されており,ビタミンDの栄養的介入による疾患予防効果の社会的インパクトは,さらに大きい可能性がある。
栄養的介入の疾患に対する絶対的効果は薬物療法より小さくとも,広い対象に適応できるため費用対効果では上回ることもある。しかし,従来わが国においては,栄養的介入の社会的意義はほとんど研究されていない。そこで,本稿ではビタミンDによる骨折予防の社会的意義について述べ,種々の栄養的介入につき,このような視点からの検討が必要であることを示唆した。