2023 年 81 巻 1 号 p. 40-49
【目的】豊前市では,高齢者を対象とした「在宅歯科訪問事業」が行われている。今回我々は,口腔ケア実施の前後における栄養に関連する因子として,低栄養状態,栄養素摂取量および食品摂取の多様性について,口腔および全身状態の関連を明らかにすることを目的として評価分析を行った。
【活動内容】事業参加者は,豊前市在住の65歳以上の207人である。口腔,身体状況,血液検査,栄養状態,食事について評価した。その後,歯科医師,歯科衛生士および管理栄養士によって,口腔や全身の状況に応じた口腔ケアおよび栄養指導等を実施し,再評価を行った。
【活動成果】口腔ケア実施後には,ベースライン時と比較して,骨格筋指数,骨格筋量が有意に高くなっていた。口腔ケア実施後に,栄養状態良好な者の割合が高くなっていたことに着目し,再評価時の簡易栄養状態評価表 (Mini Nutritional AssessmentⓇ Short Form: MNAⓇ-SF) を目的変数とした多変量のロジスティック回帰分析を行った。その結果,ベースライン時の骨格筋指数と食品摂取の多様性評価票 (Dietary Variety Score: DVS) の点数が,有意に低栄養評価と関連していた。
【今後の課題】口腔のみならず栄養や全身健康状態の改善がみられたことは,有意義で実践的な取り組みであるといえる。在宅における訪問歯科治療や口腔ケアでは,対象者の食生活や生活状況の把握ができるというメリットがあるにもかかわらず,管理栄養士との協働例はまだ少ないのが現状である。今後,検証を行いながら,口腔栄養協働モデルシステムを築くことを目指している。