1977 年 35 巻 5 号 p. 255-261
妊婦における酸味への嗜好と閾値を官能検査により調査した。妊婦101名を対象に非妊婦44名をその対照とし, さらに男子21名を参考にした。酸味への嗜好は酢酸濃度の異なる4種類の「はるさめ酢の物」と, クエン酸濃度の異なる4種類の「レモンゼリー」を用い, 最も好ましいものを各々1試料ずつ選択させることにより判定した。「はるさめ酢の物」に対しては妊婦群, 非妊婦群および男子群の間に好ましいとする酸濃度に対する有意な差は認められなかった。「レモンゼリー」に対しては, 妊婦群が, 非妊婦群および男子群よりも, 低いクエン酸濃度の試料を好んだ。また, 非妊婦群よりも男子群の方が, 高いクエン酸濃度のものを好んだ。
酸味に対する閾値は4段階の濃度のクエン酸溶液を用いて測定した。妊婦群は非妊婦群よりも有意に低い閾値を示し, また妊娠初期妊婦においては, 中期・末期妊婦より低い傾向であった。レモンゼリーのクエン酸濃度に対する嗜好と, 酸味閾値の間には有意の相関がみられたが,「はるさめ酢の物」と閾値の間には, 認められなかった。