1991 年 49 巻 3 号 p. 129-137
本分析では, 実態調査結果を用いて食生活における想起との比較を通じ, その正確度, 一致度の観点から検討を試みた。結果は次のとおりである。
1) 食品の利用頻度を用いて想起することはあまりあてにならない。現在の食生活の行動を基準として, 過去の行動を判断する傾向がみられた。言い換えると, 過去においても現在と同様な行動をとっていたと錯覚する傾向がみられた。
2) 昭和49年の実態と, 63年の時点からの49年についての想起との一致率が, 90%以上を示した品目は, 従来から継続してつくられている伝統的な料理に多かった。これは現在の献立意識が強く働く傾向の結果とみられる。
3) 以上のように高い一致率を示した品目について, 更に期待一致率からみた特化係数を用いて検討した。特化係数が1.20以上を示した品目は, この14年間に“日常食”として食卓に登場した品目が多く, よく想起されている。従って, 想起に頼っても信頼できることを示唆している。しかし, 伝統的に継続してつくられているものについては, ランダム期待値とほぼ同じ水準のものが多かった。
4) 昭和49年の実態が正しいという前提の下に,χ2検定を行った。その結果, 106品目中危険率5%未満で有意差がみられたものは39品目であり, 大部分は有意差がみられなかった。なお, 主食と主菜では想起のずれの方向が異なっていた。