映像学
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論文
松本俊夫と羽仁進の映画論、そしてアヴァンギャルド芸術運動―1950年代から1960年代初頭までの活動考察
大谷 晋平
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2019 年 102 巻 p. 94-114

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抄録

本論は 1950 年代から 1960 年代にかけての松本俊夫と羽仁進の映画活動原理の違いを、権力と個人の関係における態度の差異を読み解くことで明らかにするものである。彼らは共に 1950 年代に映画制作を開始し、新たな映画表現の探求を積極的に行っていたが、その背景には、複雑な現実を捉えるための新たな方法の探求が当時の表現者全体の課題であったという状況がある。

第一節では、それらの課題が花田清輝や安部公房らを中心としたアヴァンギャルド芸術運動を通して、芸術と政治の優位性、権力に対する作家の態度など様々な観点を含むリアリズムの問題として当時の表現者たちに共有されていったことが明らかにされる。松本や羽仁を含む一部の新しい世代の映画人たちはその芸術運動と関わり、問題意識を共有していく。

第二節では、松本の前衛記録映画論を考察する。彼は、日本共産党が記録映画を利用していたことを批判し、観客を啓蒙する映画ではなく、その感性に訴えて固定観念を破壊する作品作りを目指したのである。

第三節では、羽仁進の映画論を明らかにした上で松本の前衛記録映画論との差異について考察する。羽仁は、カメラを通して人物を「凝視」することで、その人物を取り巻く環境やその人物内部に起因する不自由さの発見を目指した。ただ、それらの発見を伝える羽仁の作品は松本に批判される。最後に、その批判を考察の切り口にして、両者の差異を明らかにする。

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