1983 年 28 巻 p. App2-
この人形展は、昭和57年、初夏発表され、内外に多くの注目を集めた、作品である。人形作家として既に有名な、辻村ジュサブロー先生が、花魁に魅せられて、江戸文化の華、吉原の美女たちにいどまれた、大意欲作である。
この辻村ジュサブローの人形の世界を映画化(映像化)して見ようと、演出担当の宮沢誠一君とこころみた。どこまで辻村作品の、“情念の世界”、“通”、“いき”という美意識を表現できるかが一番の問題点であった。
この辻村作品を一言で表現すれば、廓を総桧造りで再現し、その建物の中で、花魁の人形五十体、大道具、小道具四八五点など、当時のおもかげがしのばれる豪華な花魁が華やかに舞っていると云える。ただ、それは、人形の高さ約25㎝の超ミニサイズの再現である。
この超ミニサイズで、しかも、動かない人形を通して、この吉原の花魁の情念の世界、辻村ジュサブローの世界をどう映像化するかたいへんに苦労した。この人形の館、妓楼模型は、遊女の部屋、内所、廊下、風呂場等が精巧に再現されているのは良いが、撮影用には作ってあるわけでなく、まだ二階は天井がないので照明や撮影が比較的やり良かったが、一階はまるでカメラや照明器材が入りこむことが出来ないので非常に困難な撮影であった。
人形が動かないのだから、カメラや照明により動きを観客に感じさせ、辻村ジュサブローの情念の世界を映像化した。
この動きを感じさせるために、クレーン・ドリー等を使用する事も考えたが、小さい所に入り込めないので、シュノーケル装置を使用した。この装置により、せまい廊下をスムーズに移動し、又階段をあたかも花魁が上っているような感じの動きに撮影することが出来た。
しかし、辻村ジュサブローの完成された芸術作品を、表現することは、えてして、その価値を下げてしまう事がかなりありますが、人形や、建物、そして小道具には、かなわないまでも、何かそれが持っているムードだけは、感じられるものが出来たと、自負しておるしだいである。