2010年8月4日から6日にかけてインド北部ラダークで発生した集中豪雨は,地域全域で鉄砲水や土石流などを引き起こし,多くの人びとの命を奪い,家屋や農耕地を土砂に飲み込んだ.この未曾有の自然災害は延べ265人の死者を出したが,そのうち現地の人びとは132人を数え,加えて出稼ぎ労働者81人,軍人29人,外国人6人も犠牲になった.鉄砲水や土石流は主にインダス川上流域の北岸に位置する集落に大きな被害を与え,ラダークの中心地であるレー市街地では26人が亡くなり,フィヤンという集落では14人が亡くなった.特にレー市街地の近郊に位置するチョクラムサル地区では48人が亡くなったが,これは現地の人びとの犠牲者数の36%を占めており,他の集落と比較しても格段に大きな被害が生じたことを示していた.本稿では,チョクラムサル地区でなぜこれほど大きな被害が生じたのか,その背景を集落の立地や発展過程から分析し,山地における災害と社会変化がどのように関わりあうのかを例示する.