学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
原著
重症患者(ICU患者)に対する栄養アセスメントと栄養管理アウトカムの関連:前向き観察研究のpost hoc解析
石川 史明東別府 直紀Daren K. Heyland
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2021 年 3 巻 5 号 p. 272-280

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Abstract

要旨:【目的】重症患者における栄養アセスメントの有無と栄養管理アウトカムの関連を推定すること.【対象および方法】国際栄養調査2014に本邦より登録され,7日以上ICUに滞在した重症患者を対象とし,栄養アセスメントの有無により2群に分け,患者背景と栄養管理アウトカム(エネルギー,たんぱく質投与量,経腸栄養開始までの日数),予後について,単変量,多変量解析により比較した.【結果】329例が対象となり,67.7%に栄養アセスメントが行われた(有群).有群でエネルギー投与量は有意に高く(中央値[四分位範囲]:12.5[6.2, 18.0]kcal/kg/day vs 8.0[2.1, 13.1]kcal/kg/day[p < 0.01]),経腸栄養開始までの日数は短かった(中央値[四分位範囲]:1.31[0.75, 2.44]日vs 2.65[1.26, 4.05]日[p < 0.01])【結論】重症患者に対する栄養アセスメントの有無は栄養投与量や早期の経腸栄養開始などの栄養管理アウトカムに関連する.

Translated Abstract

Objective: The aim was to infer the association between the presence or absence of a nutritional assessment and nutritional management outcomes for critically ill patients in the ICU.

Subjects and Methods: We enrolled critically ill patients (>7 days’ stay in the ICU) from Japan in the International Nutrition Survey 2014. Patients were divided in two groups according to the presence or absence of nutritional assessment. Patient characteristics (e.g., reason for admission and BMI), nutritional management outcomes (energy and protein intake and days to start of enteral feeding), and prognostic data were compared between the two groups by univariate and multivariate analyses.

Results: Of the total 329 patients enrolled, 67.7% had a nutritional assessment (assessed group). Energy intake was significantly higher in the assessed group than in the non-assessed group (median [interquartile range] 12.5 [6.2, 18.0] kcal/kg/day vs. 8.0 [2.1, 13.1] kcal/kg/day, respectively; p<0.01). The number of days to the start of enteral feeding was shorter in the assessed group than in the non-assessed group (median [IQR] 1.31 [0.75, 2.44] days vs. 2.65 [1.26, 4.05] days; p<0.01).

Conclusions: Having a nutritional assessment is associated with better nutritional management outcomes for critically ill patients in the ICU such as higher nutrition intake and early initiation of enteral feeding.

目的

集中治療室(intensive care unit; 以下,ICUと略)に入室している重症患者(以下,ICU 患者と略)は栄養障害のリスク症例であり,エネルギーやたんぱく質の負債は死亡率の増加や在院期間の延長などの悪化と関連することが知られている 12.また,6,518 名を対象とした単施設後ろ向き観察研究 3では,ICU 入室時の栄養障害は 1 年後の死亡率を増加させると報告されており,栄養状態は短期的だけでなく長期的な予後をも左右する.そのため,適切な栄養療法を早期に実施することの重要性が指摘されている 4.しかし,本邦における ICU 患者では低いエネルギー充足率が報告され 5ており,栄養投与量が不足している可能性が指摘されている.

一方,適切な栄養療法を行うためのファーストステップとして,Blackburn らによって栄養アセスメントの重要性が提唱され 6,古くから広く認識されている.栄養療法の手順は栄養ケアプロセス(nutrition care process ; NCP)として国際標準化されつつあり 7)~9,栄養アセスメントを実施すると,続いて栄養ケアプランを作成することになっている. また, 日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)においても栄養管理の手順が示されており 10,栄養アセスメントとして栄養障害の種類の診断と栄養療法の内容決定などが含まれている.栄養障害の診断などのための栄養アセスメントのツールは,欧米 1112や本邦 10では医療機関や施設の役割,対象者などにより使いわけられており,SGA(subjective global assessment)13, MNA(mini nutritional assessment short-form)14, MUST(malnutrition universal screening tool)15, NRS-2002(nutritional risk screening)16などがある.しかし,これらはおもに一般病棟の入院患者(成人,高齢者)や在宅患者を対象として平均在院日数,合併症発生率,死亡率と相関する効果が示されることが多く,ICU 患者に対する当該分野の研究は少ない.近年,ICU 患者において nutrition risk in the critically ill( 以下,NUTRIC score と 略 )17 や modified nutrition risk in the critically ill( 以下,mNUTRIC score と略)18によって栄養リスクとアセスメントがされた群に対して,より早期,より高いエネルギーを投与することで予後が改善した報告 19があるが本邦での報告はまだない.

このように適切な栄養療法には栄養アセスメントの実施は欠かせないと考えられているが,ICU患者におけるその実施率ならびにその予後への影響に関する報告も乏しい.

そのため,われわれは国際栄養調査 2014(International Nutrition Survey 2014;以下,INS と略)のデータを用いて,栄養アセスメントの有無と栄養管理アウトカムの関連について調査することとした.

対象および方法

1)デザイン

INS は全世界の ICU を対象に行われる栄養療法に関する前向き観察研究であり,2014 年 9 月 17 日~2015年3月1 日に ICU に入室した 18歳 以上の成人かつ ICU 入室前 24 時間以内,もしくは入室後 48 時間以内に人工呼吸器管理を開始した症例を対象としている.本論考は INS の post hoc 解析としておこなった.

2)セッティング

本研究の対象は INS に参加した本邦の施設の症例のうち,7 日以上ICU に滞在した症例とした. INS の詳細は他稿 5を参照されたい.

データの収集方法

ICU 入室から最大 12 日間,もしくは退室するまでの栄養療法に関連するデータを各施設の研究者が 20 症例を目安として連続して収集した.各参加施設はインターネット上のデータベース管理システムである research electronic date capture(以下,REDCapTM と略)に以下のデータを登録しており,それらを取りまとめたデータから本邦の症例に関する結果を,INS の本邦コーディネーターである東別府が代表研究者 Heyland から受け取り解析を行った.

データの収集項目は以下の通りである.施設情報として病床数,ICU 病床数,ICU のタイプ(オープン型,クローズド型,その他),監督医師の有無,管理栄養士 ICU 勤務の有無,経腸栄養プロトコルの有無.なお,INS では診療方針を決定する際の権限が各科主治医にある施設をオープン型,集中治療医にある施設をクローズド型としている.患者情報として年齢,性別,体重,BMI,入室疾患タイプ(内科入院,予定手術後,緊急手術後),入室後 24 時間での acute physiology and chronic health evaluation Ⅱ( 以下,APACHE Ⅱ score と略), mNUTRIC score.栄養情報として,栄養アセスメントの有無および栄養管理アウトカムを取得した.本論文では,栄養アセスメントの定義を INS に準じ,体重減少,栄養不良のリスクなどの「栄養障害の評価・判定」を行い,かつ「栄養必要量の決定」を実施することとし,栄養管理アウトカムを適切な栄養療法,すなわち ICU 入室後の経腸栄養(enteral nutrition;以下, EN と略)開始までの時間と栄養投与量が栄養必要量に近いこととした.栄養投与量は ICU 入室後最長 12 日目までの EN および静脈栄養(parenteral nutrition;以下,PN と略)ならびにプロポフォール(脂質を含む鎮静剤)の投与量から計算した.加えて,栄養アセスメントを行った職種,栄養必要量(ICU 在室中の最終目標エネルギーおよびたんぱく質量),INS では経口摂取を実施した日以降は栄養投与量をカウントしなくなるため,栄養投与量評価可能日数(経口摂取がなく,かつ ICU に滞在した日数)も取得した.なお,栄養必要量の決定法については,INS は栄養療法の実態調査であるため,統一された算出法が存在しない.各施設で各症例についての栄養必要量を算出する際に,担当医療者が任意の体重・算出法を用いて決定した.また,予後情報として ICU在室日数,在院日数,60 日死亡率を調査項目とした.

これらの項目について栄養アセスメントの有無 にて有群,無群の 2 群に分け,比較検討を行った.倫理審査に関しては,各参加施設は自施設の倫理委員会の承認を得た.

3)統計解析

連続変数は中央値(四分位範囲)にて表記し, Mann-Whitney の U 検定を用いて解析した.離散変数は χ2 検定にて解析した.栄養アセスメントの有無と栄養管理アウトカムの関連について多変量解析を用いて背景因子の調整を行った.目的変数が 2 項分布する場合は二項ロジスティック回帰分析,連続変数の場合は重回帰分析を行った.その際の共変量は性別,年齢,BMI,APACHE Ⅱ score,ICU 入室のタイプ(内科入院,手術後),栄養投与量評価可能日数,および栄養アセスメントの有無とした.p < 0.05 を有意とし,統計処理には SPSS® ver23.(IBM)を使用した.

結果

本邦から参加した施設数および患者数は 27 施設 542 例であった.このうち ICU 滞在が 7 日以上であった 329 例を対象とした.

1)全症例の概要

本邦の参加施設全体(n=542)における主な結果を表1 に示す.施設情報では平均 ICU 病床は10.2 床であり,ICU タイプはオープンとクローズドが各々およそ 50%であった.また,約 9 割の施設には,監督医師が存在していた.管理栄養士の ICU 勤務は 10 施設(約 4 割)であった.栄養アセスメントを実施する職種については,医師 70.4%,看護師 11.1%,管理栄養士 18.5%と医師が実施した割合が多かった.患者情報では男性の割合が約 7 割であった.年齢,体重,BMI の中央値(四分位範囲)は,それぞれ 67.4(18, 91), 57.6(49.1, 66.5),22.3(19.7, 24.7)であった.入室疾患のタイプは約 5 割が手術後症例であった.重症度を表す APACHE Ⅱ score は 23,mNUTRIC score は 5 であった.なお,mNUTRIC score はデータの打ち込み後に REDcapTM にて自動生成されるため,mNUTRIC score のデータが示されていても栄養アセスメントの有無には影響しない.

表1. 施設情報および患者情報(全体)
施設情報
参加施設数 27
病床数 平均(範囲) 697(214-1308)
ICU病床数 10.2(5, 20)
ICUタイプ
 オープン型 14(51.8%)
 クローズド型 13(48.1%)
 その他 1(0.1%)
監督医師の有無
 あり 24(88.9%)
管理栄養士ICU勤務の有無
 あり 10(37%)
栄養アセスメントを行っている人(%)
 医師 70.4
 看護師 11.1
 管理栄養士 18.5
経腸栄養プロトコルの有無
 あり 10(37%)
患者情報
参加患者数 542
年齢 67.4(18, 91)
性別(%)
 男性 69.4
 女性 30.6
体重(kg) 57.6(49.1, 66.5)
BMI(kg/m2 22.3(19.7, 24.7)
入室疾患タイプ
 内科 249(46.0%)
 手術後 293(54.0%)
 予定手術 120(22.1%)
 緊急手術 173(31.9%)
APACHE Ⅱ Score 23(17, 27)
mNUTRIC Score 5(3, 6)
栄養投与評価可能日数 8(5, 12)

ICU; intensive care unit, BMI; body mass index,

APACHEⅡ; acute physiology and chronic health evaluation,

mNUTRIC score; modified nutrition risk in the critically ill

中央値(四分位範囲)

国際栄養調査2014に参加した27施設で登録された542名の施設情報および患者情報

2)本研究の対象症例の概要

本研究の対象(n=329)における主な結果を表2 に示す.全体 329 例のうち栄養アセスメントは223 例(67.7%)に対して実施されていた.

表2. 施設情報および患者背景(本研究の対象)
栄養アセスメント
対象(n = 329) 有群(n = 223) 無群(n = 106) p
施設情報
ICUのタイプ
 オープン型 144(43.8%) 91(40.8%) 53(50%) <0.01
 クローズド型 156(47.4%) 132(59.2%) 24(22.6%)
 その他 29(8.8%) 0 29(27.4%)
監督医師の有無
 あり 290(88.1%) 200(89.7%) 90(84.9%) 0.27
管理栄養士ICU勤務の有無
 あり 129(39.2%) 85(38.1%) 44(41.5%) 0.63
経腸栄養プロトコルの有無
 あり 136(41.3%) 123(55.2%) 13(12.3%) <0.01
患者背景
年齢 70(60, 80) 70(59.0, 81.0) 69(60.8, 78.3) 0.58
性別(%)
 男性 69.3 72.2 63.2 0.27
 女性 30.7 27.8 36.8
体重(kg) 57(49.1, 66.1) 57.3(49.4, 67.3) 56.0(48.6, 66.2) 0.79
BMI(kg/m2 22.2(19.7, 24.6) 22.1(19.7, 24.5) 22.4(19.6, 25.3) 0.83
入室疾患タイプ
 内科 179(54.4%) 117(52.5%) 62(58.5%) 0.01
 手術後 150(45.6%) 96(47.5%) 44(41.5%)
  予定手術 38(11.6%) 19(8.5%) 19(17.9%)
  緊急手術 112(34.0%) 87(39.0%) 25(23.6%)
APACHE Ⅱスコア 24(18, 29) 24(18, 29) 24(18, 29) 0.65
mNUTRIC Score 5(3, 6) 5(3, 6) 5(3, 6)
栄養投与量評価可能日数 11(8, 12) 12.0(8, 12) 11.5(8, 12) 0.862

ICU; intensive care unit, BMI; body mass index,

APACHEⅡ; acute physiology and chronic health evaluation, mNUTRIC score; modified nutrition risk in the critically ill

中央値(四分位範囲)

国際栄養調査2014に参加した27施設でICU滞在が7日以上であった329名の施設情報および患者情報

栄養アセスメントの有無にて,有群(n=223),無群(n=106)の 2 群に分け,比較検討を行った.施設情報では有群でクローズド ICU が有意に多く,経腸栄養プロトコルも有する割合が多かった.患者情報では有群では緊急手術の割合が有意に多いことを除いて,年齢,性別,体重,BMI, APACHE Ⅱ score,mNUTRIC score,栄養投与量評価可能日数は両群間に差はなかった.

3)栄養アセスメント有群におけるエネルギー必要量決定法

エネルギー必要量の決定法は,体重あたり(kcal/kg/day)で計算した症例が 84.3%と最も多く, 次に Harris-Benedict 式で計算した症例が 13.0%,ルーチンで規定量を投与した症例では 1,500-2,000kcal/day が 1.3%,1,200-1,499kcal/dayが 0.9%であった.なお,体重あたりで計算した症例の内訳は,20kcal/kg/day 以下を目標とした症例が 10.6%,20-25kcal/kg/day が 42.9%,25-30kcal/kg/day が 30.7%,30kcal/kg/day を超える目標が 15.9%であった.エネルギー必要量の決定に使用した体重は,理想体重を BMI20-25 として計算した症例が 43.5%,現体重が 40.0%, Hamwi 式による理想体重が 8.5%,推定された体重が 3.6%,通常の体重が 3.6%であり,体重を計算に用いない症例が 0.9%であった.

4)栄養管理アウトカムの結果

栄養管理アウトカムの結果を表3 に示す.エネルギーおよびたんぱく質必要量の中央値(四分位範囲) はそれぞれ 25(22.3, 29.0)kcal/kg/day, 1.05(0.95, 1.23)g/kg/day であった. エネルギーおよびたんぱく質投与量の中央値(四分位範囲)はそれぞれ(有群 vs 無群,以下同じ)12.5(6.2, 18.0)kcal/kg/day vs 8.0(2.1, 13.1)kcal/kg/day(p < 0.01),0.51(0.24, 0.77)g/kg/day vs 0.24(0.06, 0.49)g/kg/day(p < 0.01)と有意に有群で高かった.EN 開始までの日数は 1.31(0.75, 2.44)日 vs 2.65(1.26, 4.05)日と有意に有群で短かった(p < 0.01).他の因子の調整済みオッズ比などの詳細なデータは付録を参照.

表3. 栄養管理アウトカム
対象(n = 329) 栄養アセスメント 単変量解析 多変量解析
有群(n = 223) 無群(n = 106) p p
栄養必要量
エネルギー(kcal/kg/day) 25(22.3, 29.0)
たんぱく質(g/kg/day) 1.05(0.95, 1.23)
栄養投与量
エネルギー(kcal/kg/day) 11.5(5.9, 16.8) 12.5(6.2, 18.0) 8.0(2.1, 13.1) 0.01 <0.01
たんぱく質(g/kg/day) 0.45(0.22, 0.71) 0.51(0.24, 0.77) 0.24(0.06, 0.49) 0.01 <0.01
経腸栄養開始までの日数(日) 1.68(0.82, 2.82) 1.31(0.75, 2.44) 2.65(1.26, 4.05) 0.01 <0.01

中央値(四分位範囲)

国際栄養調査では栄養アセスメントに栄養必要量の決定が含まれるため,栄養アセスメント有群のみ栄養必要量を記載.

栄養必要量決定に関しては,各施設で各症例について算出する際に,担当医療者が任意の体重・算出法を用いて決定した.

栄養投与量はICU入室中,最長12日目までの平均栄養投与量を記載.

5)予後について

予後情報の結果を表4 に示す.在院日数,死亡率に差はなかった.ICU 在室日数のみ 13.1(9.2, 21.7)日 vs 12.7(8.9, 16.9)日 と有群で有意に長かった(p = 0.02).

表4. 予後情報
対象(n = 329) 栄養アセスメント 単変量解析 多変量解析
有群(n = 223) 無群(n = 106) p p
ICU在室日数(日) 12.9(9.1, 20.4) 13.1(9.2, 21.7) 12.7(8.9, 16.9) 0.08 0.02
在院日数(日) 56.6(33.2, 61) 57.6(32.7, 61.0) 52.4(35.9, 61.0) 0.27 0.27
60日死亡率
 生存 260(79.0%) 173(77.6%) 84(79.2%) 0.89 0.80
 死亡 69(22.4%) 50(22.4%) 22(20.8%)

中央値(四分位範囲)

死亡は二項ロジスティック回帰分析

多変量解析における共変量は性別,年齢,BMI,APACHE Ⅱスコア,ICU 入室のタイプ(内科,予定手術,緊急手術),栄養投与量評価可能日数,および栄養アセスメントの有無とした.

考察

本研究の結果,栄養アセスメントの実施率は 67.7%であった.また,栄養アセスメントの有無が栄養投与量,EN 開始までの日数に関連していた.

1)先行研究の結果との比較について

ICU 患者に対する栄養療法の重要性に関する先行研究としては,栄養リスクがある症例に対して適切な栄養療法を行うと,死亡率や感染性合併症などの予後と関連するという海外からの報告17)~23があり,栄養投与量に関しては初期の短期間に関しては議論の余地があるが,長期的にはエネルギー投与量とエネルギー消費量の差が負である場合は生存率が低下することが,ICU 患者で報告されている 24.そのため,ICU 患者に対して早期に栄養アセスメントを行い,栄養リスクを判定し,栄養必要量を決定することが有用である可能性があるが,これまでに ICU 患者に対する栄養アセスメントの有無と栄養管理アウトカムおよび予後との関連は報告されておらず,本研究が初めてである.

2)患者背景と栄養管理アウトカムについて

両群間で年齢,性別,BMI,APACHE Ⅱ score に差がなかった(表2)が,有群で緊急手術の割合が多く(表2),ICU 在室日数は多変量解析において有意に長かった(表4).有群でエネルギー投与量が増加した(表3)点に関しては, ICU 在室日数が長いことによりエネルギー投与量が高かった可能性はあるが,栄養投与量評価可能日数に差がなかった(表2)ため,主たる要因とは考えにくい.適切な栄養療法を行うためのファーストステップとして栄養アセスメントを実施することで,医療スタッフが各患者の栄養療法へと意識が向き,早期の EN 開始や栄養投与量増加などにつながったことが示唆された.無論,栄養アセスメントを行わずとも適切な栄養療法を行うことも可能であろうが,本研究のデータから,栄養アセスメントを行わないと EN 開始は遅延することが示唆された.

3)予後情報に臨床的効果を認めなかった点について

本研究の対象者の多くは BMI < 25 であるが, BMI < 25 の症例(かつ NUTRIC score ≧ 5)は栄養リスクが高く,エネルギー投与量を高くすることで予後が改善する傾向にあると Wischmeyerらにより報告されている 25.また,BMI が 22 程度の重症症例に対して EN 単独の栄養療法を実施すると,エネルギー充足率が高い群において死亡率が低いことを我々は報告した23.しかしながら,本研究ではこれらの先行研究と相反する結果となり,栄養アセスメントの実施による臨床的効果を認めなかった(表4).その理由としては,エネルギー過剰による害,いわゆる overfeeding の可能性が挙げられる.先行研究 23では EN 群のみの結果であり,EN のみであれば overfeeding の予後への影響は少ないとの報告 26もある.本研究では PN との併用症例もあるため,吸収されたエネルギー量が先行研究よりも大きくなり, overfeeding が生じた可能性は否定出来ない.

4)本研究および先行研究からみえるエネルギー投与量の設定方法

本研究と先行研究 23では,前述の通り症例群や栄養投与法が異なっており,「ICU 入室後にエネルギー投与量をどのように増量すべきか」直接的に導き出すことは難しい.現時点ではエネルギー必要量の推定に予測式を用いる場合,ICU 入室から最初の 1 週間は 70%程度を目指すことが推奨される 27.具体的には,EN 単独であれば ICU 入室からの 1 週間でエネルギー必要量の 70%未満まで徐々に上げていくが,本研究のように PN を併用するのであれば,栄養素が全て体内に吸収されることまでを考慮して,さらに少なめのエネルギー投与量とすることで Overfeeding をさけ,first do no harm につながる可能性がある.

5)本研究の限界

1.栄養アセスメントの定義の妥当性

今回,我々の研究においては,栄養アセスメントの定義を「栄養障害の評価・判定」と「栄養必要量の決定」とした.ICU 患者を対象とした場合,現時点では欧州 27や本邦 1028では従来の栄養評価を実施することとされ,米国 29では従来の栄養指標は検証されていないため,これらを使用しないことが推奨されており,意見が分かれている.一方,国際的には Cederholm ら 8により,栄養アセスメントは「栄養スクリーニングによって特定された全ての患者に実施されるもの」「SGA のようなツールを使うこと」「エネルギー,たんぱく質必要量を決定すること」などと明確に定義された.これらは今回の我々の研究と概ね合致するため,栄養アセスメントの定義については妥当と考えられた.

2.集団代表性

本研究に登録された施設数は 27 施設であり,本邦全体の ICU の栄養療法の現状をすべて表しているとはいえない.INS への参加は,比較的栄養療法に興味がある ICU が設置されている施設に限られており,本研究の外部妥当性には限界がある.しかし,INS へ参加しているほど栄養療法に興味がある施設でも栄養アセスメントの有無に差があるため,他の施設でも「栄養障害の評価・判定」と「栄養必要量の決定」を実施することで,より早期の EN 実施,栄養投与量の増加につながると考えられる.

3.他の交絡因子

前向き観察研究であるため,検討していない交絡因子の可能性を否定出来ないこと,データ入力の正確性が保証されていない 30こと,また,栄養障害の有無に関するデータ取得は十分とはいえないことが本研究の限界であるが,多変量解析で可能な限り調整したうえでも,栄養アセスメントと栄養管理アウトカムの関連は認められた(表3).

結論

重症患者に対する栄養アセスメントの有無は,栄養投与量や早期の EN 開始などの栄養管理アウトカムに関連する.

謝辞

国際栄養調査に参加していただいた全施設および全参加者にお礼申し上げる.また,神戸市立医療センター中央市民病院小児科宮越千智先生から統計処理について重要な示唆をいただいたことに御礼申し上げる.

本論文に関する著者の利益相反なし

引用文献
 
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