学会誌JSPEN
Online ISSN : 2434-4966
研究報告
北海道内のNST稼働認定施設における歯科医師・歯科衛生士のNSTへの関与に関する実態調査
大橋 伸英水野 愛理
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2024 年 6 巻 4 号 p. 213-217

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Abstract

2016年度から歯科医師が栄養サポートチーム(Nutrition support team;以下,NSTと略)回診に参加することで,歯科医師連携加算の算定が可能となったが,歯科医療従事者のNSTへの関与に関する報告は少ない.本研究は,オンライン質問票による歯科医療従事者のNSTの関与の実態を把握することが目的である.2023年5月~6月に,北海道のNST稼働認定施設72施設を対象にオンライン質問調査を実施した.回収率は31.9%(23施設)であり,NSTへの歯科医師,歯科衛生士の参加はそれぞれ9施設,7施設であった.歯科医師連携加算は6施設で算定していた.歯科医師の役割は口腔状態評価,歯科治療の必要性判断,歯科衛生士の役割は,口腔ケアの指導,口腔状態評価,口腔衛生管理であった.歯科医師は臨床栄養に関する知識不足,歯科衛生士はこれに加え一般的な医学の知識不足が指摘された.今後,歯科医療従事者がNSTへ参加するために卒前,卒後教育,生涯研修による臨床栄養教育の必要性が示唆された.

目的

医療は,高齢者の増加とともに病院完結型から地域完結型へシフトしてきている.近年,口腔健康管理を担う歯科は,歯の形態回復を主眼とした治療中心の歯科医療だけでなく,咀嚼機能,摂食嚥下機能等の口腔機能の維持・回復を目指した管理・連携型の総合的な歯科医療提供が求められている.入院患者,在宅療養者,要介護者に対する適切な歯科医療の提供は対象者の食への意欲を増進させ,栄養状態の悪化を防ぐ可能性がある.2016年度から,入院患者に対する栄養サポートチーム(Nutrition Support Team;以下,NSTと略)において,歯科医師がNST回診に参加することで,従来のNST加算に上乗せする形で歯科医師連携加算の算定が可能となった.歯科医師連携加算により歯科医師がNSTへ参加する機会が増え,栄養管理に携わる頻度も今後増加してくることが予想される.しかし,これまでに歯科医師を含めた歯科医療従事者のNSTへの関わりに関する詳細な実態調査は行われていない.今回われわれは,歯科医療従事者のNSTへの関わりを明らかにすることを目的とし,オンライン質問票調査を用いた横断的研究を行った.歯科医療従事者のNSTへの関わりの実態と他職種から求められる役割,問題点を明らかにすることを試み,今後の歯科医療従事者が取り組むべき栄養療法の方向性について考察した.

対象および方法

対象は,日本栄養治療学会の認定を受けている北海道のNST稼働認定施設72施設とした.2023年5月~6月に本研究に関するオンライン質問調査依頼文を各施設に送付し,Google Formsによるオンライン質問の回答を依頼した.調査内容は,NSTへの歯科医師・歯科衛生士の参加の有無と現状,栄養サポート加算における歯科医師連携加算の算定の有無,歯科医師・歯科衛生士のNSTの業務内容,NSTに望まれる歯科医師・歯科衛生士とその役割について,歯科医師・歯科衛生士がNST等に関わるにあたり不足している知識・能力とした.

オンライン質問調査依頼文には学会・論文発表に使用することを明記した.本研究は患者データを直接扱っておらず,研究倫理委員会への申請対象外である.

結果

オンライン質問調査依頼文を送付した72施設中23施設から回答を得た(回収率:31.9%).病院の内訳は,大学1施設,急性期病院16施設,回復期・療養型病院6施設であった.オンライン質問調査票に回答した職種は,管理栄養士が20施設,医師が2施設,看護師が1施設であり,歯科医療従事者からの回答はなかった.

NSTへの歯科医師の参加は9施設(39.1%)であり,すべての施設で常勤の歯科医師が参加し,2施設で日本栄養治療学会認定歯科医が参加していた.歯科医師連携加算を算定している施設は6施設であった.NSTに歯科医師が参加していない14施設のうち,参加予定がある施設が1施設,参加予定がない施設が8施設,未定の施設が5施設であった.NSTに歯科医師が参加している施設における歯科医師の業務は,口腔状態の評価と歯科治療の必要性の判断が最も多かった(88.9%,図1).NSTに参加する歯科医師は,他職種と同様の栄養管理に関わる研修を修了している歯科医師が望ましいと43.5%の施設(23施設中10施設)が回答していた.NSTに参加する歯科医師に求められる役割は,歯科治療の必要性の判断,口腔状態の評価,歯科専門職による口腔ケア,日常的な口腔ケア方法の指導の順に多かった(図1).

図1.NSTにおける歯科医師の現状の業務内容と求められる役割

注:現状はNSTに歯科医師が参加している9施設中の割合,役割は回答を得た全23施設中の割合

NSTへの歯科衛生士の参加は,23施設中7施設(30.4%)であり,すべての施設で常勤の歯科衛生士が参加しており,日本栄養治療学会認定NST専門療法士の資格を有する歯科衛生士の参加は2施設であった.NSTに歯科衛生士が参加していない16施設のすべての施設で歯科衛生士が参加する予定はなかった.NSTに歯科衛生士が参加している施設における歯科衛生士の業務は,日常的な口腔ケア方法の指導が最も多く(85.7%,図2),口腔状態の評価と歯科専門職による口腔ケアが次いで多かった(71.4%,図2).NSTに参加する歯科衛生士は,栄養管理に関わる所定に研修を修了していることが望ましいと回答した施設は9施設(39.1%)であった.NSTに参加する歯科衛生士に求められる役割は,日常的な口腔ケア方法の指導,口腔状態の評価,歯科専門職による口腔ケア,歯科治療の必要性の判断の順に多かった(図2).

図2.NSTにおける歯科衛生士の現状の業務内容と求められる役割

注:現状はNSTに歯科衛生士が参加している7施設中の割合,役割は回答を得た全23施設中の割合

歯科医師は病態栄養,経腸栄養,静脈栄養等の臨床栄養に関する基本的知識の不足を指摘する回答が比較的多かった(図3).歯科衛生士は病態栄養・経腸栄養・静脈栄養等の臨床栄養に関する基本的知識と一般的な医学の知識の不足を指摘する回答が比較的多かった(図3).

図3.歯科医師,歯科衛生士に不足している知識や能力

注:回答を得た全23施設中の割合

考察

2022年の厚生労働省の医療施設調査では,一般病院7,100施設のうち歯科は1,079施設(15.2%),歯科口腔外科は1,013施設(14.3%)で標榜(重複計上あり)されていることが報告されている1).2015年からの推移でみると歯科標榜病院数は減少傾向である一方,歯科口腔外科の標榜数は増加傾向であるが総数はおおむね変化していない.

歯科医師のNSTの参加に関して,Ishimaruら2)は2018年の厚生労働省の医療施設調査を二次利用した横断研究を行い,一般病院7,205施設のうち歯科医師を雇用している病院は1,584施設(22.0%),歯科医師を含むNSTがある病院は374施設(歯科医師の雇用あり324施設,歯科医師の雇用なし50施設)であったと報告している.また,歯科標榜病院のうち歯科医師は44.8%,歯科衛生士は31.6%でNSTに関与しており,歯科医師連携加算を算定している施設の割合は22.6%3),歯科医師連携加算を算定している病院のうち,7割以上が病床数300床以上の病院であること4)が報告されている.歯科標榜のない病院では,訪問診療により歯科医師が院内で歯科治療を行うことが可能であるが,歯科医師がNSTに参加することはまれであり,病院における歯科の栄養管理の関わりが希薄である.本研究では,NSTへの歯科医師の参加は約4割,歯科衛生士の参加は約3割であり,過去の全国的な統計3)とほぼ同等の結果となり,北海道の地域的な特異性は認めなかった.また,NSTへ歯科医師は参加しているが,歯科医師連携加算が非算定の施設を3施設認めた.これは,医科診療報酬の栄養サポートチーム加算にさらに加わる算定項目であり,保険点数の周知が不足している可能性や当該算定が歯科診療報酬項目の一つではないため,歯科医師側も加算算定の認識が不足している可能性も考えられた.

NST加算の算定にあたっては,医師,看護師,薬剤師,管理栄養士の4職種は栄養管理に関わる所定の研修の修了かつ専任の常勤が算定の基準となっているが,歯科医師連携加算の算定では歯科医師に栄養管理に関わる研修の義務はなく,勤務体系も他職種のように問われていない.本研究では,約4割の施設で歯科医師は栄養管理に関わる所定の研修を修了していることが望ましいと考えられていることが明らかとなったが,現状では勤務体系を問わず栄養管理に理解のある歯科医師の参加が求められていることが示唆された.今後は,歯科衛生士も含めた歯科医療従事者に対する栄養管理に関わる教育が急務であると考えられる.

NSTにおける歯科医療従事者の役割について,吉田ら5)は,歯科医師は口腔衛生管理,口腔粘膜疾患の早期発見・治療,咀噌機能の回復,摂食嚥下機能評価・リハビリテーションの4点の役割を有すること,藤本6)は,歯科が果たすべき役割は口腔ケアによる口腔保清・口腔機能向上と口腔や歯,義歯などの歯科治療を通しての咀嚼嚥下環境の改善であることを報告している.また,柴﨑7)は,歯科医師は口から食べられるように支援すること,歯科の専門的治療を行うことがNSTにおける自身の役割として認識し,歯科衛生士は専門的口腔ケアを行うこと,口腔ケアの指導を行うこと,歯科医師や他職種との橋渡しを行うことを自身の役割として認識していると報告している.一方,他職種が求める歯科医師の役割は義歯調整を行うこと,摂食の支援を行うこと,歯科衛生士の役割は嚥下訓練を行うこと,歯科領域のコーディネートを行うこと,専門的口腔ケアを行うことであり7),歯科衛生士には口腔機能の改善だけでなく,口腔ケアの実施と教育・指導の役割が求められている8).本研究において,NSTの歯科医師の業務と求められる役割は,歯科治療の必要性の判断と口腔状態の評価が主であることが示唆され,日常的な歯科診療の域を脱しない範疇の内容であり,歯科医師のNSTへの参加が期待できる可能性があることが明らかとなった.また,NSTの歯科衛生士の業務と求められる役割は患者・他職種への口腔ケア方法の指導であり,口腔衛生管理の専門職として現状で十分に活躍できる可能性があると考えらえた.本研究では,歯科医療従事者の役割として摂食嚥下に関連する項目は歯科介入の必要性の判断,口腔状態の評価,口腔ケアほど求められていなかった.病院内の医療チームには摂食嚥下に関連するチームが独立して存在し役割分担が行われていることが一因ではないかと考えられた.特に歯科衛生士が摂食嚥下機能評価や摂食嚥下リハビリテーションを行うことは求められていないことが特徴的であった.摂食嚥下の評価・訓練は歯科衛生士も行うことができるが,言語聴覚士に特化した業務と認識されている可能性があるのではないかと考えられた.また,新潟県歯科医療機能連携実態調査によると,歯科診療所において摂食嚥下指導の対応が可能な施設は2012年で3.2%,2019年で4.4%,対応できない施設は2012年が58.3%,2019年が59.9%と報告されており9,10),摂食嚥下に関わる歯科医療従事者の絶対数が少ないことが示唆された.歯科医療従事者は摂食嚥下障害を専門領域の一つと考え,口腔機能管理の一環として摂食嚥下に対応可能な歯科医療従事者の総数を増やすことが求められ,歯科が摂食嚥下に関与できることを周知していくことが必要であると考えられた.

一方で,歯科医師・歯科衛生士の臨床栄養面全般の知識が不足していると他職種は考えていることが本研究で明らかとなった.臨床栄養教育に関して,医学教育のモデル・コア・カリキュラムには栄養アセスメント,栄養ケア・マネジメント,栄養サポートチーム,病態別の栄養療法について,経静脈栄養と経管・経腸栄養の適応,方法と合併症,長期投与時の注意点を指導することが記載されている11).一方,歯学教育では歯科医師国家試験出題基準に,経口・経静脈・経管栄養等の臨床栄養に関連する記載があるが12),医学教育と比較すると十分とは言い難い.そのため,今後歯学教育・歯科衛生教育において臨床栄養教育を充実させ,メディカルスタッフ間の齟齬を少なくしていくことが必要であると考えられた.また,歯学教育では関連医学に関する体系的な教育が行われるが,歯科衛生学教育では歯学教育ほど行われておらず,歯科衛生士の医学的知識の不足に関連していると考えられた.改善策として,歯学部・歯科大学や歯科衛生士養成校における卒前の臨床栄養教育の充実,卒後教育として生涯研修等で臨床栄養を歯科医師・歯科衛生士が学ぶ場を増やすことが重要であると考えられた.日本栄養治療学会の認定歯科医を取得している歯科医師は医師と同様の栄養管理に関わる所定の研修を修了しているため,臨床栄養に精通しており今後歯科専門職への教育の中心的役割を担うことができると考えられる.

本研究における限界として,本研究のアンケート回収率が低いこと,北海道の地域に限定された調査であるため,選択バイアスを生じている可能性は否定できない.そのため,日本栄養治療学会が主導となり全国規模の調査を行う必要性があると考えられた.

結論

北海道のNST稼働認定施設における歯科医療従事者の関与に関する初めての実態調査を行った.歯科医療従事者は,日常の歯科診療の業務範囲内の内容を行うことでチーム医療に貢献できることが明らかとなったが,栄養管理に関する知識面の不足も指摘されているため,今後,歯科医療従事者の臨床栄養教育が必要であることが示唆された.

 

本論文における著者の利益相反関係なし

引用文献
 
© 2024 一般社団法人日本栄養治療学会
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