The Journal of Engaged Pedagogy
Online ISSN : 2436-780X
Print ISSN : 1349-0206
Life Resources to Support Sustainable Life Management
Focusing on Gender and Sexuality
Michiko TOMITA
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2024 Volume 23 Issue 1 Pages 159-170

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持続可能な生活経営を支える生活資源の検討

-ジェンダー・セクシュアリティに着目して

冨田 道子(広島都市学園大学)

1 研究背景                                   

家政学は,生活の仕組みを科学的に解明し,生活の質の向上をめざす学問である。その研究分野の1つである生活経営学は,Goldsmith(2013)が「生活経営とは,生活を総合的にマネジメントすることであり,生活に必要な資源の管理,生活組織の人間関係の調整,さらに生活組織と地域や市場,環境との関係の調整などを行うことである」と述べているように,個人の生涯にわたる多様なリスクに対する保障としての「生活資源」を増やし,持続可能な社会に向けた生活とその変化をつくることのできる生活者・生活主体者の育成をめざしている。

ここでいう生活資源とは,その人の生活ニーズを満たすために動員される,知識や技能,情報,人間関係力,資金や物資,施設やサービスなどを指し,それを湯浅(2008)は,格差・貧困社会を生き抜くための「溜め」と表現している。生活資源の種類には,①人的生活資源,②人間関係資源,③個別的生活資源,④経済的生活資源,⑤時間,⑥情報,⑦社会的制度がある(赤塚,2010)。

しかし,社会の急激な変化に伴い家族組織や家族形態が多様化するなか,生活経営

の今日的課題である「生活の持続可能性の実現」をふまえると,ジェンダー平等やワークライフバランスなど割り当てられた性別による役割分担意識や社会環境の変革に加え,その「生活」の土台にジェンダーと共にセクシュアリティの視点も据えられるべきと捉えた。多様な人々が自分らしさを大切にしながら安心して豊かな生活を営むために,この視点は切り離せないと考えるからである。

加えて,教員養成大学に所属する立場から,2017年(平成29年)告示の学習指導要領解説 総則編で示された「未来社会を切り拓くため,子どもたちの資質・能力を一層育成する」可能性を広げるためには,子どもの成長・発達を支える若者の人権意識・豊かな人間性の育成,換言すれば,ジェンダーとセクシュアリティ双方の視点の醸成が

喫緊の課題と捉えた。                           2020年,(一社)日本家政学会生活経営学部会によって刊行された『持続可能な社会

をつくる生活経営学』において,セクシュアリティに係る記述は次の三つの章で取り

上げられている。

 序章において,久保(2020)は,生活経営に求められる視点の一つに「多様性の尊重」を挙げているが,その内容は生活形態の多様さ,未婚化・晩婚化,単身世帯の増加が中心で,セクシュアリティについての記述は「LGBTを代表とする多様な性のあり方への理解が広がり」に留まっていた。

次に「第3章 生活の組織と単位の変化」の「さまざまな関係性」の項で,大泉(2020)は同性パートナーシップ制度の用語を解説している。なお,トランスジェンダーの性別変更についての記述では,「性別適合」ではなく「性転換」の文言が使われていることを確認した。

さらに「第16章 持続可能な社会の生活設計」の「多様性の尊重」の項で,天野(2020)は今後の課題として,男女二分法に違和感のある人や性的指向がさまざまな人を想定した生活のしくみを検討しなければならないとまとめた。

以上のことから,現時点での生活経営学分野において,セクシュアリティ視点から

の検討は過渡期にあると捉えた。また,生活資源とセクシュアリティに係る論文は筆者が調べた限り見当たらない。

2 研究目的

本研究では,持続可能な社会生活を送ることを念頭に,性と生の現実に目を向けた生活経営の授業を行った上で,社会の急激な変化のなかを生きる若者に求められる「生活資源」について検討することを目的とする。

3 研究方法

(1)調査対象者                             

H大学の2023年前期 基礎教養科目「ライフマネジメント」を受講する1年生36

名である。

(2)調査方法

毎授業の最後に提出してもらうレスポンスシートの記述内容を,作成した評価指標にもとづきレベル分析する。その後,各レベルの学生の記述内容から,生活経営において必要な生活資源をジェンダー・セクシュアリティ視点から検討する。

(3)分析方法

収集したデータの意味付けや解釈をする手立てとして用いた評価指標については,

赤塚(前掲)提案の,生活経営主体である若者が自らの手で生活資源をもってよりよい生活につくりかえるプロセスを示した「生活資源コントロールレベル」を参考に検討した。

その結果,「生活資源コントロールレベル」とその内容について,典型的な生活行動から捉える場合とジェンダー・セクシュアリティ視点から捉える場合とではフィットしない部分があるように思われた。そこで赤塚が参考にした久木田(1998)論文を精査したところ,パウロ・フレイレのエンパワーメント・プロセスモデルにたどり着いた(表1)。

表1 生活資源コントロールプロセスとエンパワーメント・プロセスモデル

このエンパワーメントを支えるプロセスを,ジェンダー・セクシュアリティ視点でさらに修正し,4段階のレベルにしたのが表2である。

表2 ジェンダー・セクシュアリティ視点から捉えたコントロールプロセス

この4段階レベルのコントロールプロセスについて,望まれる成果・到達目標を反映するものとして指標を作成した。各レベル2ないし3項目の指標で構成している。この評価指標にもとづき,学生のレスポンスシートの記述がどのレベルに該当するのかを捉え,引き出された言葉から意識・価値観を確かめながら,生活経営において必要な生活資源をジェンダー・セクシュアリティ視点から検討する。

4 結果と考察

(1)科目「ライフマネジメント」

  シラバス(表3)と講義概要を以下に示す。

表3 シラバス(一部抜粋)

【概要】生活経営に求められる「共生・多様性」視点の育成をめざすものである。

【到達目標】性と生の現実に目を向け,持続可能な社会生活を送るために必要な力を身につける。

① 性を科学的視点から捉えることができる。

② 性をジェンダー視点,社会的・文化的視点から捉えることができる。

③ 他者との関係を築くことの重要性を理解できる。

④ 人生の主体者として自らを捉え ることができる。

次に,主な授業テーマについて,レスポンスシートからうかがえる学生及び学生間による授業の受けとめ方,思考の深まり方に着目するとともに,先述したジェンダー・セクシュアリティ視点から捉えたコントロールプロセスのどのレベルに該当するのかを検討した。

(2)主な授業テーマとレスポンスシート内容

①性自認・性的指向(Sexual Orientation Gender Identity:SOGI)    

性自認・性的指向を考える初回のレスポンスシートには,用語の理解が深められたというものや,「友達や同級生などに当事者がいる」「タレントのりゅうちぇるさんのことが頭に浮かんだ」など,第三者的な立場から捉えた自分のまわりにいる人についての記述が目立った。

しかし,なかには親からの期待に反する自分がいることや,自分のなかにある多様性を自覚する記述などもみられ,それらを次の授業で共有したことで「『見えないことは自分にとって関係ないこと』だと思っていた」「見えないから存在しないわけではない」といった気づき・意識の変化を記述する者が増えたことを確認することができた。

 本テーマの「第3回 多様な性をめぐる社会的課題」では,吉野(2020)の著書から次の2つを取り上げた。1つは,性別変更のための問診について「精神科医に『本物の女』『本物の男』として『認めて』もらわなければホルモン投与や外科手術ができず身体が変えられない」であり,2つは,『性同一性障害』を『トランスジェンダー』と言い換えない日本の医学界の制度とその背景にある考え方,つまり「生殖腺切除と外性器形成の要件は,当事者を女/男に明確に切り分け二元化しようとするものであり,性別二元論の極致が表れたもの」である。続く授業で,2023年6月に施行した「LGBT理解増進法」を取り上げた際に,2021年の法案時の「性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならない」のトーンが薄まり,「全ての国民が安心して生活できることとなるよう,留意するものとする」という条文が加わったことについて確認すると,一連の授業におけるレスポンスシートには,「『性同一性障害』は,差別用語のように感じてしまうので,私はこの言葉を使いたくない。違和感を覚える」「同性愛者を認めたくない,排除したい,というねらいがみえてくる。海外では同性婚を認めている国があるのになぜ?」「一定数いるであろうアイデンティティに戸惑い悩む人々に対して,存在を否定する発言をするのは決して許されないと思う」など大きな反応がみられた。

毎時間の授業初めに,前時の振り返りや学生から出された疑問等に応える双方型授業を実施している。そのため「トランスジェンダーの友人が『公表するとみんなに引かれる。いじめられる』と言っていた。なぜ人は“自分と違う”ことでいじめるのか」「人を好きになることに理由は必要?『惹かれた人がその人だった』というだけでしょう」など,1つのテーマについてコメントが何週間も続くことがある。このような他者の思い,願いや問いに対し,授業中にダイレクトに共感や異論などの声を上げる者はいないが,後述する最終レポートの内容を先取りすれば,学生はこれまで見聞きしてきた人権にかかわる事象について時間をかけて回想し,時にはそれについて学外の

友人とも話をし,自己内対話をし続けながら言葉を紡いでいるように受けとめた。

彼らの声を受けて設定したグループワーク「友人にLGBTQ当事者であることを打ち明けられたら」では,「打ち明けてくれてありがとう」「へーそうなんだ。今までと何も変わらないよ」「これまでの君と何か変わるわけじゃないだろ?」など,当事者を受容するセリフが多く出された。しかし,その日のレスポンスシートには「驚く」「冗談だと思ってしまう」「理解に時間がかかる」といった正直な気持ちも書かれていたことから,これらの戸惑う気持ちを次の時間に共有し,「知る」「理解する」「受容する」ことについて考えてみた。

本テーマにおいて,学生の思考は【基本的ニーズレベル】から【意識化レベル】【参加レベル】まで混在していることが確認できた。

②生殖の機能―避妊・コンドームネゴシエーション

生殖の機能に関する授業のなかに,避妊具を装着するための交渉術をグループで考える活動を取り入れたところ,発表では「子どもができた時に責任がとれない」「堕ろすのは危険だから、避妊しないとだめだろ」「コンドームが嫌ならしません」などの声が上がった。なかでも「ピルの費用を出してね」の声を受けて低用量ピル(以下,ピルとする)の避妊以外の活用方法―月経不順,月経前症候群(PMS)など―についてふれると,その後2週間はレスポンスシートを介してさまざまな情報共有がなされた。例えば,ピルの購入方法,病院にかかる費用,親にどのように話したのか,副作用の心配などの質問に対し,複数の学生から,自身の不調状況,通院にかかる費用やジェネリック医薬品で半額になること,血栓症のリスクについては年に1回の血液検査結果で安心して服用できているといった回答があった。これらのやり取りのなかで,こころとからだの機能の繊細さや複雑さとともに,かかりつけ医の必要性も理解できたように思われる。男子学生のこの日の記述内容は,異性のからだについて労わるものが多かった。

 本テーマにおいて,学生の思考は【基本的ニーズレベル】【意識化レベル】が存在すると捉えた。

③産む・産まれる

 ここでは,妊娠,出産の科学的な理解とともに,男性にもある産後うつや特定妊婦・ひとり出産についても扱った。レスポンスシートには「出産の大変さと親への感謝」のほかに,「出産に対する覚悟」「出産・育児にかかる費用をパートナーと話し合う」「行政の各種制度について調べる責任」などの記述が多くみられた。

一方,そもそも産むことについて「子どもと自分,双方の将来を考える必要がある」

「一生子どもをもたない選択肢もある。何が幸せかを考えたい」「『選択できる』権

利を行使したい」など,女に産まれても子どもを産むのは義務ではない,本人の意思に反してからだが管理されるならば基本的人権の侵害だ,というメッセージもあった。

 これらのレスポンスを【参加レベル】と捉えた。

④-1 産まない・産めない

 産む・産まれるに続き,ここでは①流産と子宮外妊娠,②人工妊娠中絶(日本の堕胎の歴史を含む)と海外における制度,③緊急避妊薬(モーニングアフターピル)の3項目を中心に扱った。高校の保健体育は結婚生活を前提とした「心身の健康」に扱いが留まっており1),産まない・産めない学習は,あくまでも結婚・妊娠・出産のルートから外れた場合の緊急措置としての扱いでしかないためである。

とりわけ②では,2021年3月にDVによる妊娠中絶に夫の同意が不要になったことや,2023年4月に経口中絶薬が厚生労働省の分科会で了承されたことも扱った。

 続く③について,2023年6月に緊急避妊薬の一部ドラッグストアでの販売についての報道がなされると,一連の事柄を受けて,学生から出生前診断についての要望が出された。具体的には,「胎児のいのちと中絶したい女性のどちらを優先するのが正しいのか。そして,『個の尊重』の個に胎児が含まれるとしても,胎児に意思確認ができないので結局は母親の意思が優先されるのか。他の学生の考えが知りたい」というものである。翌週それを共有する時間をとった。

④-2 胎児のいのち・中絶したい母親

 学生の意見は,母親を優先する,胎児のいのちを優先する,決められない,の3つに大別された。

 「中絶したい母親の気持ちを優先する」を選んだ学生の声としては,「たとえ産ん

だとしても,ちゃんと育てられないだろう」「子どもは大人の助けなしでは生きられない」「予期せぬ妊娠は多様にある」などがあった。

「子どものいのちを優先する」の声としては,「せっかく宿った命なのだから,責任

をもって育ててほしい」「子どもには産まれてくる権利があると思う」「命を奪うのは

殺人と同じ」などがあった。

「決められない」の声としては,「胎児が育っていく過程で,母性本能が生まれて母親としての自覚が出てくるかもしれない」「『産みたくない』親は育てる気がないのに,それで産んだら辛くて仕方がないのではないか」「子どもを産むことで意識が変わり,『この子のために頑張ろう』と思えるかもしれない」などがあった。

これらの意見のほかにも,多様な記述がなされていた。

例えば「中絶が悪いわけじゃない。産む・産まないは個人の自由だと思う。しかし,

産んだからには親としての責任をもってほしい」「その人にとって選択した答えを,

自分なりに正解にしていくことが大切だと思った」「親の判断・生き方で子どもに辛

い思いをさせることを考えると,産まない選択をすることも,ある意味では子どもを

優先することにつながるのではないかと思う」「選択できる権利のなかに『中絶』を

含まないでほしい」「産む・産まないは本人が決めること」などである。

さらに,それらのレスポンスを受けて「義務教育段階から学校にスクールカウンセラーが常駐し,気軽にカウンセリングが受けられるとよい」や「病院でのサポート,アフターケアが必要。学校に案内ポスターを貼ることも必要だ」など困ったときの相談先を検討するものや,「私たちの世代が,声を上げやすく相談しやすい環境をつくっていく必要がある」「助けたり,助けられたりすること。地域にそういう関係性を築けることも大切だ」などの意見・提案があり,自分たちが社会環境を変えていくのだという主体的な姿勢もうかがえた。

 ④-1・2のレスポンスを【参加レベル】【コントロールレベル】と捉えた。

本授業において,出生前診断の結果で胎児に障害があると判明した場合の,自身の判断について触れたのは数名だった。「前回のみんなの考えを受けて,今,障害を持って生きている人たちの人権を考えると,この診断が必要なのだろうかと思った」「出生前診断は良い方法だと思った。障害を望んで生まれてくる子どもは少ないからだ。しかし,そうやってどんどん障害のある子がいなくなる社会に障害のある子が生まれた場合,生きづらさや孤独を味わうのが心配だ」などである。後者の学生は本診断に揺れている。

この点について,横田(2022)は「『障害児を産むことは不幸だから産まない』ということは,現在生きている障害者(児)をも『不幸な存在』として規定して生きていくことになる」と述べている。このような当事者とその家族の生きづらさの背景にある社会システムの問題にまで切り込むには,本授業だけでは限界がある。2年次専門発展科目等との連携を検討したい。

⑤性をめぐるさまざまな動き

 2023年7月に性的同意年齢が引き上げられ,それに伴い不同意性交罪の内容変更がなされた。元陸上自衛官やタレント事務所に関わる性被害問題も噴出し,社会が大きく変わろうとする状況のなかで授業は進められた。性暴力については,とりわけ,グルーミングの加害者が子どもにとって身近な家族,教員や塾講師などであることが学生に強く認識されると,レスポンスシートには,被害者本人が気づきにくいというグ

ルーミングの特質や,性的同意の難しさと大切さがさまざまな形で表現され,保育・教育現場における性教育実施の必要性・使命感や家庭との連携など,意識の高まりが確かめられた。

 本授業のレスポンスを【コントロールレベル】と捉えた。

⑥安心・自由な環境をつくるために

これまでの授業を振り返り,より多くの人が人生の主人公として主体的に生きられ

るためには,どのようなこと・力が必要かをグループで話し合い,発表した。

そこで挙げられた言葉には,知識を身につけること,他者を尊重すること,聴く力,判断力,勇気,気力,人間力,自己肯定感や自尊感情がもてること,意見表明ができること,困ったときに助けてくれる人がいること,自分のことが自分で決められる権利があることを知ること,生き方に正解はないことを知ること,すべての人が少数派になり得ることを理解すること,ヒト・モノ・コトを多面的に捉えること,「ふつう」「当たり前」を疑うこと,などがあった。

これらのことから,授業をとおして科学的知識が増えるだけでなく,多様な他者の声が共有されたことで「人権や性の問題は思っていた以上に身近にあり,知らず知らずのうちに関わっていることもあった」「現代社会において,すべての人がマジョリティからマイノリティになり得ることを自覚する必要がある」「正しい知識・情報を子どもと共有することで,子どもも自分で自分を守れるようになると考えた」など,自身の問題として捉え直され,社会的課題をどのように解決したらよいのかを具体的に考える姿も垣間見られるなど,コントロールプロセスレベルが徐々に高まっていく様子が確かめられた。

(3)持続可能な生活経営を支える「生活資源」

 一連の授業によるコントロールプロセスレベルの変容をふまえ,学生の持続可能な生活経営を支える生活資源を検討・整理した。

表4左の家庭・社会生活の視点から捉えた7種類の生活資源と具体例は,先述した日本家政学会生活経営学部会の分類によるものである。これにもとづき,ジェンダー・セクシュアリティの視点から捉えた生活資源と具体例を,レスポンスシートに記述された言葉を拠り所に検討した(表4右)。

その結果,家庭・社会生活の視点から捉えた生活資源「①人的生活資源」と「②人間関係資源」の内容の違いをより明確にするため,ジェンダー・セクシュアリティ

視点で捉えた生活資源においては,個人の能力に関わる「①人的生活資源」を「①能

力的資源」とし,人間関係にかかわる「②人間関係資源」を「③人的資源」とした。

また,家庭・社会生活の視点から捉えた生活資源「①人的生活資源」の具体例で示

された「健康」を,ジェンダー・セクシュアリティ視点で捉えた生活資源「①能力的資源」の具体例では「セルフケア力」に修正した。その理由は,性的に健康であることの解釈が典型的な性と生殖のあり様(子安2013),つまり妊娠・出産ができる(させる)ことに限定することを危惧したためである。そこで,SOGIの思想に即し,自分のこころとからだをマネジメントできる力を育成するというイメージから「セルフケア力」とした。

さらに,ジェンダー・セクシュアリティ視点で捉えた生活資源「⑦社会的資源」の具体例では,家庭・社会生活の視点で捉えた具体例を一部修正し,関連する社会的支援団体等を加えた。

最後に,ジェンダー・セクシュアリティ視点で捉えた生活資源において,学生の言葉から他者とのかかわりのなかで育成される資源もあることが汲み取れたことから,これら具体例の分類名は「②関係起因資源」とした。

表4 ジェンダー・セクシュアリティ視点から捉えた生活資源

5 まとめ

 持続可能な社会生活を送ることを念頭に,性と生の現実に目を向けた生活経営の授業を行い,社会の急激な変化のなかを生きる若者に求められる「生活資源」について検討した。

その結果,ジェンダー・セクシュアリティ視点から捉えたコントロールレベル,す

なわち学生の生活主体者・主権者としての意識が徐々に高まっていったことが確認できた。加えて,ジェンダー・セクシュアリティ視点から生活資源を①能力的資源,②関係起因資源,③人的資源,④経済的資源,⑤時間,⑥情報,⑦社会的資源の7つに整理することができた。

 『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』の著者グラットンら(2016)は,人生100年時代において,無形資産の生活資源が人生のあらゆる側面できわめて大きな役割を果たすと述べている。表4右における①能力的資源,②関係起因資源,③人的資源がそれにあたるため,この無形資産を学生のなかにどのように増やしていくのかが今後の課題である。

その際,参考にしたいのは最終レポート「ジェンダー・セクシュアリティ平等の視点から,子ども・若者の人権を守るために今できること,これからしたいこと」の内容である。

具体的には「毎回の授業でほかの人の意見やさまざまな悩みを知ることで,自分の世界が広げられました」「いろんな性がある,いろんな表現の仕方がある,ということを忘れないようにしたい」「人はみな違っている,という大事なことが伝えられる人になりたい」「私はこれまで『彼氏いるの?』と言ってきましたが,この授業を受けてからは『恋人いるの?』と言うようになりました。知ること・学ぶことで使う言葉も変わってくると思います」「幼少期からの性の学習が,人権学習の鍵になると考えます」などの記述に加え,義務教育学校においてさまざまな場面・活動のなかにハラスメントが存在していたことも確かめられた。とりわけ「教員は自分がしていることを暴力だと認識していなかったのではないか」という指摘や「教員間の力関係が子どもに影響を及ぼしているのではないか」といった分析もあり,教育や支援が支配に通じる可能性を感取しているように思われた。これまで「当たり前」「そういうものだ」と思い込まされ,やり過ごしてきたことが,最終レポートをまとめるなかでより深く意識化されたと推察する。

これら学生の声を受け,授業内での学生と授業者および学生間の対話・コミュニケーションを増やす工夫がもっとできたのではないかと思われる。生活のなかにある小さな事柄にも目を凝らしながら,持続可能な社会生活を送る手掛かりを学生とともに探究していきたい。

【注】

1)平成30年告示「高等学校学習指導要領解説 保健体育編 保健編」(p208)「ア 知識

②結婚生活と健康」には,「結婚生活について,心身の発達や健康の保持増進の観点から理解できるようにする。その際,受精,妊娠,出産とそれに伴う健康課題について理解できるようにするとともに,(中略)家族計画の意義や人工妊娠中絶の心身への影響などについても理解できるようにする。また,結婚生活を健康に過ごすには,自他の健康に対する責任感,良好な人間関係や家族や周りの人からの支援,及び母子の健康診査の利用や保健相談などの様々な保健・医療サービスの活用が必要であることを理解できるようにする。 なお,妊娠のしやすさを含む男女それぞれの生殖に関わる機能については,必要に応じ関連付けて扱う程度とする」と記されている。

参考・引用文献

赤塚朋子.(2010).『暮らしをつくりかえる生活経営力』(社)日本家政学会生活経営学部会編,50-58.朝倉書店

天野晴子.(2020).『持続可能な社会をつくる生活経営学』(一社)日本家政学会生活経営学部会編,172-182.朝倉書店

大泉伊奈美.(2020).『持続可能な社会をつくる生活経営学』(一社)日本家政学会生活経営学部会編,29-33.朝倉書店

久木田純.(1998).エンパワーメントとは何か.『現代のエスプリ』No.376,11-34.ぎょうせい

久保桂子.(2020).『持続可能な社会をつくる生活経営学』(一社)日本家政学会生活経営学部会編,1-6.朝倉書店

子安潤.(2013).『リスク社会の授業づくり』144-145.白澤社

佐藤雄一郎.(2021).フレイレの思想と実践から学びを問う.『季刊 人間と教育』No.110,

66-73,旬報社

パウロ・フレイレ.(2011).『新訳 被抑圧者の教育学』三砂ちづる訳,217,亜紀書房

文部科学省.(2017).『学習指導要領解説 総則編』2.東洋館出版社

湯浅誠.(2008).『反貧困-すべり台社会からの脱出』岩波書店

横田弘.(2022).産む・産まない権利とは.『シモーヌ』VOL.7,24-27.現代書館

吉野靫.(2020).『誰かの理想を生きられはしない』35-60,青土社

リンダ・グラットン,アンドリュ-・スコット.(2016).『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』東洋経済新報社

 
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