日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: L3-5
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オホーツク海の環境変動と生物生産
*中塚 武
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抄録

北大低温研では、98年から4年間、オホーツク海の物理・化学・地質学的な総合観測を進めてきた。また現在は、総合地球環境学研究所と連携して、アムール川から親潮域に至る、陸から海への物質輸送が生物生産に与える影響についての総合研究プロジェクトを推進中である。本講演では、それらの成果や目標を踏まえて、オホーツク海の生物生産、特に基礎生産の規定要因について議論する。オホーツク海の物理・化学環境は、(1)世界で最も低緯度に位置する季節海氷、(2)半閉鎖海に流入する巨大河川アムールの存在によって特徴付けられる。東シベリアからの季節風によって生じる(1)は冬季の海洋環境を過酷にする反面、海氷と共に生成される高密度水(ブライン水)は海水の鉛直循環を活発にし、窒素やリン、シリカ等の栄養塩を海洋表層にもたらして春季の植物プランクトンブルームを引き起こす。また有機物を豊富に含む高密度水塊を大陸棚から外洋中層へ流出させ、特異な中層の従属栄養生態系を発達させている。(2)はそれ自身が海氷形成を促進する一方、栄養塩、特に北部北太平洋で基礎生産を制限している微量元素である鉄を大量にもたらすことで、当海域の生産を支えていると考えられている。現在のオホーツク海では、その高い栄養塩・鉄濃度を反映して、主たる一次生産者は珪藻であるが、珪藻の繁栄は約6000年前から始まったばかりであり、それ以前の完新世前期には、円石藻などの外洋の温暖な環境に適応した藻類が繁茂していたことが明らかとなった。海の植物相が劇変した時期に、アムール川周辺では鉄の源である森林の形成が進み、海では寒冷化が進んだ。こうした事実は、オホーツク海の生物生産を支える原動力が、過去_から_現在を通じて、アムール川からの物質供給と海水の鉛直循環にあることを意味しており、近年の地球温暖化はオホーツク海の生物相の大きな変化をもたらす可能性があることを示唆している。

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© 2004 日本生態学会
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