日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: P1-164c
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吊下げるべきか、切り落とすべきか?エゴツルクビオトシブミの揺籃作製をめぐる代替戦術の戦術間比較
*小林 知里
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抄録

オトシブミ科に属するオトシブミ亜科・アシナガオトシブミ亜科の種は、母親が子供のために食料兼シェルターとしての葉巻・いわゆる揺籃を作製する。オトシブミ亜科の一種・エゴツルクビオトシブミは、一匹のメスが二つの型の揺籃を作ることが知られている。一方は葉をJ字状に裁断して木から吊下げるタイプ(吊下げ型)で、もう一方は葉を両側から直線的に裁断して、木から切り落とすタイプ(切り落とし型)である。二つの戦術が共存する適応的意義を探るため、それぞれの揺籃の作製数、生存率および死亡要因ごとの死亡率を季節変化とともに調べ、戦術間で比較し、違いを検出した。その結果、エゴツルクビオトシブミが揺籃を作製する4月下旬から7月初旬にかけて、初期に作られる揺籃ははほとんど全てが吊下げ型であることが分かった。その後、切り落とし型の比率は季節とともに上昇した。また、切り落とし型の生存率は吊下げ型より常に高かった。さらに、吊下げ型・切り落とし型ともに卵期で最も死亡率が高く、特にオトシブミ亜科に特異的な二種の卵寄生蜂、Poropoea morimotoiおよびP. sp.1 (ともにタマゴコバチ科)の寄生による死亡が多かった。P. morimotoiによる寄生率は、切り落とし型の比率が高い時に切り落とし型の方が吊下げ型より高く、P. sp.1の寄生率は、吊下げ型の比率が高い時に吊下げ型の方が切り落とし型より高いという、より多い方が集中的に寄生を受ける頻度依存的寄生がみられた。この二種の卵寄生蜂による頻度依存的寄生が、エゴツルクビオトシブミにおける二つの戦術の維持に関与している可能性があると考えられる。

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© 2004 日本生態学会
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