日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: S2-3
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河川性サケ科魚類のメタ個体群動態:長期データ解析とモデリング
*小泉 逸郎
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抄録

本講演では、大学院時代から調査を続けている河川性サケ科魚類のメタ個体群構造およびその動態について、現在までに得られた知見を紹介する。また、この発表を通して、個人レベルで長期データを集積することの難しさ、および研究分野間のリンクの必要性などにも言及したい。

北海道空知川に生息するオショロコマは本流では産卵せず小さい支流でのみ産卵するため、一本の支流を局所個体群の単位と捉えることができる。各支流では産卵メス数が10−20個体と非常に少なく、一本の支流のみで個体群を長期間維持するのは難しいかも知れない。そこで、空知川水系のオショロコマがどのような個体群構造を呈し、どのようなプロセスを経て長期間存続しているのかを知ることは個体群生態学上、非常に興味深い。
まず、マイクロサテライトDNA解析を行ったところ、各支流個体群は独立して存在しているわけではなく、それらが個体の移住を介して水系全体でメタ個体群構造を形成していることが明かとなった。また、ここで遺伝的分化が認められなかった近接支流間でも、個体数変動は同調していないことが7年間(4支流)の個体数調査から示され、ここでもメタ個体群構造の仮定が満たされた。次に、メタ個体群の特徴である局所個体群の”絶滅”および”新生”が起きているかどうかを、81の支流におけるオショロコマの存在の有無から検証した。ロジステイック重回帰分析の結果、小さい支流では絶滅が起きている可能性が高く、よく連結された支流では絶滅後の新生率が高いことが示唆された。
以上のDNAおよび野外データからHanski(1994)のパッチ動態モデルを構築し、メタ個体群動態のシミュレーションを行った。解析の結果、メタ個体群動態は上流域と下流域で2分されることが示された。さらに、オショロコマの長期存続のためには、この2つの地域を連結する中流域の小支流も重要であることが明らかになった。

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