日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: L2-3
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増えるも減るもお里次第:北方性魚類の資源変動と気候変動
*森田 健太郎福若 雅章
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抄録

魚類資源の変動機構は、古くから水産業研究の中核課題となってきた。中でも、サケ、タラ、ニシンといった北方性の魚類は昔から食卓に上がることが多く、比較的長期の漁獲データが蓄積されている。本発表では、これらの北方性魚類を例に、魚類の個体群動態について紹介したい。まず、大きな特徴として上げられるのは、再生産関係(親子関係)の不明瞭さである。これは、観測誤差やプロセス誤差が大きいことによるものなのか、それとも、強い密度依存性が働いているためなのか論争がある。いずれにせよ、親魚の量とは独立に稚魚が沸いてくるような場合が少なくない。タラやニシンでは、卓越年級群と呼ばれるベビーブームによって漁業が成り立っている(いた)と言っても過言ではない。そして、そのベビーブームの発生は海水温とリンクしていることが多い。興味深いことに、産卵場が北にある個体群では水温と稚魚の豊度に正の相関が見られ、産卵場が南にある個体群では水温と稚魚の豊度に負の相関が見られている。また、北太平洋全体の大きなスケールの気候変動として注目を浴びているものに、アリューシャン低気圧の大きさがある。北太平洋のサケの漁獲量は20世紀後半に著しく増大したが、これはアリューシャン低気圧が活発になってきたこととリンクしている。アリューシャン低気圧が活発になり強風が吹くと、湧昇や鉛直混合が強まり一次生産が高まるというメカニズムがあるらしい。実際、冬の風の強さと夏の動物プランクトン量に強い相関があるという報告もある。以上のように、海水温やアリューシャン低気圧の大きさが魚類の資源変動と相関しているという知見は多い。しかし、海の中を調べるのは容易ではなく、その因果関係を解明するのは難しい。海水温と卓越年級群の相関も、水温の直接効果ではなく、餌や海流などを介した相関であると考えられている。魚類の資源変動と気候変動の因果関係は今後の研究課題である。

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© 2004 日本生態学会
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