日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: S4-1
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アポイ岳における高山植物群落の40年間の変遷
*渡邊 定元
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抄録

特別天然記念物の指定を契機として,1954年より著者は北大舘脇操教授の指導の下に文化財の定時観測の意味をふくめて,アポイ岳超塩基性岩植物相の調査を主として馬の背登山道から幌満お花畑について機会あるごとに調査を行ってきた(渡邊1961,1970,1971,2002)。調査の過程で常に注目してきたのは超塩基性岩フロラの急速な劣化・衰退であった。それは,人間活動によるフロラの劣化もさることながら,動物散布による遷移の促進といった生態系管理の基本にかかる問題を含んでいた。アポイ岳では,この45年間で高山植物が生育するかんらん岩露出地が大幅にせばまってハイマツ林やキタゴヨウ林に遷移してきている。その遷移の機構は,まず南斜面のお花畑にホシガラスによってキタゴヨウの種子が貯食され,その一部は芽ぶく。15年を経たのちには樹高2.5m程度に達し,チャボヤマハギやエゾススキが侵入して,標高が低いなどの理由から,近い将来,森林に推移することが想定されている(渡邊1994)。急速な温暖化は,このテンポを確実に早めているとみてよい。お花畑の消失は,世界でアポイ岳にしかない固有種のエゾコウゾリナをはじめ,エゾタカネニガナ,アポイクワガタなどの植物を確実に消失させている。貴重種,稀産種の保護には,思い切った対策が必要である。1989年,北海道庁の委嘱を受けて,アポイ岳産主要植物の種ごとの衰退に関する調査と評価を行った。その後,1998年より行われている増沢武弘らの調査に加わり最新のフロラの動向について客観的な評価を行うことができた。この研究は,20紀後半の環境保全問題に焦点をあてる意味から,アポイ岳における超塩基性岩植物相の45年間(1954-1999)の劣化・衰退の現状を明確化するとともに,主要な種について過去50年間の動向について明らかにし,保全対策について提言する。

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© 2004 日本生態学会
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