日本生態学会大会講演要旨集
第51回日本生態学会大会 釧路大会
セッションID: S5-4
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群集動態論に立脚した湖沼生態系マネージメント理論
*加藤 元海Stephen Carpenter
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抄録

湖沼はその流域からの過剰なリンの負荷により、水の澄んだ貧栄養状態から植物プランクトンが大量に発生する富栄養状態へと突然変化をすることがある。この変化は突発的かつ不連続的に起こり、変化後の水質の改善は困難であることが多く、ときにはリン負荷量を抑制しても不可能な場合もありうるため、湖沼生態系管理上この「不連続的な富栄養化」の可能性に関する詳細な評価が必要とされている。しかしこのような不連続的な水質変化の可能性は多くの要因に依存し、その中でも湖沼形態や水温、沿岸帯植物の優占度などが挙げられる。ここでは、これまでの野外研究の知見に基づいた数理モデルを用い、これら上述の要因が不連続的富栄養化に与える影響を評価した。その結果、湖沼の平均水深と水温が不連続的富栄養化や富栄養化後の水質改善に対して重大な影響があることが分かった。特に浅い湖沼では、沿岸帯植物が湖底から巻き上がるリンの再循環を抑制する効果が大きく、不連続的富栄養化は起きにくかった。水温の高い湖沼では湖底からのリンの再循環が促進され、富栄養化は起こりやすく、富栄養化後の水質改善は困難であった。湖沼生態系管理上特筆すべきこととして、平均水深が中程度の場合、もっとも不連続的富栄養化が起こりやすく、水質悪化後の改善ももっとも困難であった。これは、深水層におけるリンの希釈効果があらわれるには浅すぎ、沿岸帯植物の効果があらわれるには深すぎるためである。ここで得られた結果は、物理的・化学的・生物学的な機構が複雑に相互作用して湖沼の不連続的富栄養化に影響しており、さらにこのことは湖沼生態系のみならず他の生態系においても不連続的な系状態の変化に大きく関与している可能性を示している。また、沿岸帯植物は植物プランクトンの抑制に影響を与える動物プランクトンや魚などの棲息場所ともなっており、栄養段階間のカスケード効果と沖帯-沿岸対相互作用を考慮した評価も検討する。

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© 2004 日本生態学会
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