日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: C103
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いつも血縁者を好むわけでない:社会性昆虫における条件依存的な利他行動
*熊野 了州
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抄録

 アリやミツバチ・スズメバチといった社会性昆虫のワーカーは普通は母巣に留まり血縁者の世話をする。半倍数性性決定遺伝システムを持つ膜翅目昆虫ではメス間で高い血縁度が期待されることから、利他行動の進化において血縁度が重要な役割を果していると考えられてきた。しかし、近年社会性昆虫の研究により養育行動は必ずしも近い血縁者に向けられるわけではないということが明らかになっており、利他行動の可塑性に関する研究が増えつつある。本研究では個体間の血縁関係がワーカーが行う養育行動に与える影響を明らかにするため、ワーカーに血縁あるいは非血縁の幼虫を与え、利他行動の有無を調査した。その結果、血縁の幼虫を与えた場合にはワーカーは血縁関係とは独立に幼虫を選択し養育するのに対して、非血縁の幼虫を与えた場合には非血縁幼虫をより好んで選択し養育した。いずれの場合にも、シーズンの経過に応じて利他行動の対象である個体の好みは変化し、特にシーズン前半に非血縁幼虫への選択的な養育が行うことが明らかになった。シーズン前半の幼虫は羽化後ワーカーになると予測されることから、ワーカーは幼虫の運命に応じて養育行動の対象や程度を変化させていると推測される。

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© 2005 日本生態学会
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