日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: D110
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高次消費者の安定同位体比から沿岸生態系の健全性を診断する
*奥田 昇濱岡 秀樹福元 亨宮坂 仁大森 浩二
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抄録

人口の集中する都市部沿岸域では、陸域からの有機物負荷や水産資源の過剰収奪による生物多様性の消失や生態系機能の低下が問題となっている。さらに近年、地球温暖化に伴う海洋構造の変化が沿岸生態系の生産性に与える影響も強く懸念されている。しかし、沿岸生態系に与えるこれらの人為的影響を網羅的かつ定量的に調査した研究は極めて少ないのが現状である。本研究は、愛媛県宇和海沿岸の主要な漁獲対象であり、底性生物群集中で優占する高次消費者ホタルジャコの炭素・窒素安定同位体比の変動パターンに着目することによって、人為的環境攪乱下における食物網を介した物質循環過程の変遷を長期的にモニタリングする手法を確立することを目的とした。2002年10月より月例採集によって得られたホタルジャコの食性を解析するとともに、本魚とその餌生物の安定同位体分析を行った。解析の結果、有光層下の生物が表層の植物プランクトン生産物によって賄われるという従来の定説「表層_--_底層カップリング」に反して、水深60mに生息するホタルジャコを中心とした底性生物群集の炭素供給源が浅海の付着藻類であることが判った。春のブルーム(藻類大発生)に伴って、表層由来の餌生物への一時的なシフトが見られるものの、その相対的重要性は低かった。このような生産構造の歪みは、当海域で大量発生する赤潮原因藻類の渦鞭毛藻を摂食する一次消費者の不在によって、食物網を介した高次栄養段階への物質移送が停滞するためであると推察された。この時期、三次消費者であるホタルジャコが一次消費者である橈脚類を頻繁に摂食することによって、窒素同位体比の顕著な低下が認められた。宇和海の主要な二次消費者であるカタクチイワシ仔稚魚の資源量減少により、食物網構造が不安定化している可能性が示唆された。

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© 2005 日本生態学会
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