日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S2-2
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タンポポの種形成と生態的分化
*芝池 博幸
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抄録

セイヨウタンポポは明治初期に日本に持ち込まれ,人里や採草地,都市的環境を中心に分布を広げた帰化植物である.近年,これまでセイヨウタンポポとして同定されてきた分類群には,セイヨウタンポポ(3倍体で無融合生殖をおこなう)と日本産タンポポ(2倍体で有性生殖をおこなう)の雑種が多数含まれていることが明らかにされた.雑種性タンポポは倍数性や核型の特徴から,さらに3つのグループ(4倍体雑種や3倍体雑種など)に大別できる.これら雑種性タンポポの生育環境の差異を明らかにするために,栃木県西那須野町の畜産草地研究所(以下,畜草研)においてタンポポが生育する場所の植生や土壌硬度,相対照度を調査した.その結果,4倍体雑種は土壌硬度が高く開けた平地に生育するのに対して,日本産タンポポは土壌硬度の低い林縁や林床に生育することが明らかとなった.3倍体雑種は比較的開けた場所に多いものの,日本産タンポポが生育するような林縁にも生育していた.3倍体雑種と日本産タンポポの生育環境の類似性は,3倍体雑種が日本産タンポポに由来するゲノムを相対的に多く含むことと関係があると推察された.次に,雑種性タンポポは無融合生殖により増殖することが確認されているので,雑種クローンの分布様式と生育環境の対応を比較した.畜草研と関東地方の1都6県から採集したサンプルを対象に,マイクロサテライト・マーカーを用いて遺伝的に異なる雑種クローンを識別した.その結果,畜草研で開けた平地に優占していた4倍体雑種は遺伝的に単一のクローンで,同型のクローンが関東平野全域に広がっていることが判明した.これらの結果は,雑種性タンポポが日本産タンポポの生育できないオープンな環境へ進出する際に,特定の雑種クローンが選択された可能性を示していると考えられる.

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© 2005 日本生態学会
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