日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: E110
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干潟内に形成された藻場の生態系機能
*矢部 徹吉田 友彦石井 裕一古賀 庸憲宇田川 弘勝佐竹 潔広木 幹也野原 精一
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抄録

【はじめに】 藻場は水の流動を緩和し有機物や底質をトラップするため、動物ベントスおよび稚魚、稚貝の供給源として機能するとされ、近年では沿岸漁獲および生物多様性回復の目的で、埋め立て等で失われた藻場の回復事業が浅海域においてなされている。
 浅海域藻場に隣接する干潟にはかつて海草藻場が分布していたことが聞き込み調査や漁場に関する古い資料調査から明らかとなった。水産の近代化に伴い多くの干潟はアサリ類の養殖などで「海の畑」に変貌し、船外機や収穫用器具の障害となる海草類は干潟内から除去されてきた。近年では好気環境形成目的で耕耘による底質改善事業もなされている。単純化された現在の干潟生態系では、漁業もいよいよ養殖から蓄養へと変貌しつつある。このような矛盾を改善するには干潟内海草藻場の生態系機能を明らかにすることが重要である。本講演では、干潟内の海草藻場の生態系機能を、底質の安定化機能、特にトラップ効果、地縛り効果、地固め効果、を中心に、これまでの研究経過を併せて報告する。

【方法と結果】 野外調査は主に千葉県富津干潟および沖縄県西表島の古見干潟、干立干潟で行った。底質はPVCコアを用い干出直後にサンプリングを行った。重量含水率、底質密度、粒度分析、強熱減量、可給態窒素、可給態リン等を実験室にて計測した。現場では、酸化還元電位、電気伝導度、地温の垂直分布を測定した。植物のバイオマスは地上部および地下部の分布を計測した。藻場のトラップ効果は小型セディメントトラップを用いて沈降フラックスを算出した。藻場の地縛り効果は蛍光砂を底質内に設置しその分散を追跡して評価した。藻場の地固め効果は貫入抵抗値を測定した。
 これらの結果、干潟内海草藻場の根圏では、裸地と比較して有機物が多く、還元的でアンモニア態窒素が多いことが確認された。藻場内では底質の巻き上げと移動が少なかったが、海草類の切れ葉や枯死部は藻場内に留まることが確認され、海草藻場による底質の安定化機能を確認することができた。

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© 2005 日本生態学会
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