日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S2-3
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シマオオタニワタリ類(シダ植物)における生殖的隔離の進化と生育環境の分化
*村上  哲明
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抄録

 生物の種分化過程においては、生殖的隔離の進化、遺伝的分化、ならびに生態的分化がしばしば同時平行的に起こると考えられる。演者らは、近年、分子マーカーによって容易に測ることができるようになった遺伝的分化の程度、そしてそれと生殖的隔離の程度、あるいは生態的分化との関係を様々なシダ植物、コケ植物について調べてきた。 シマオオタニワタリはリンネによって記載されたシダ植物の1形態種で、旧世界の熱帯域に広く分布し、生育環境の上でも低地から高地、暗くて湿った環境から明るく乾燥した環境まで幅広く生育するとされてきた。ところが、演者らがこの種群の葉緑体DNAにコードされているrbcL 遺伝子の塩基配列を調べたところ、種子植物の科レベルの大きな変異量がこの1形態種の中に見られることがわかった。 次に、広く東南アジアからrbcLの塩基配列が様々な程度に異なるシマオオタニワタリ類の植物サンプルを採集し、同時に採集したその胞子から配偶体(前葉体)を培養して人工交配実験も行った。その結果、rbcLの塩基配列の差違と生殖的隔離の程度の間には強い正の相関が見られた。さらに、rbcLの塩基配列が大きく異なるものは同所的に分布している場合でも、一般的に明確な生態的分化が見られることも明らかにした。すなわち、生育する高度や樹に着生する位置などがrbcLタイプごとに明確に分化していたのである。 また、距離的に離れた産地間で比較しても、rbcLの塩基配列が似ている群ごとに、似たような海抜高度に生育することが多いこともわかってきた。生態的分化があることは多様性の維持という観点から考えても非常に重要である。今後も、生殖的隔離、遺伝的分化のみられるものが生態的にも分化が見られないかという観点で調べていく必要があると考えている。

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© 2005 日本生態学会
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