日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: F109
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餌料ー動物組織間における安定同位体比濃縮係数の変異についてーエスチ ャリ底生無脊椎動物の事例
横山 寿石樋 由香*玉置 昭夫原田 和幸下田 勝政小山 一騎
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抄録

炭素・窒素安定同位体比分析法を食物網の解析に用いるとき,1栄養段階ごとに炭素値は0から1‰,窒素値は3から4‰上昇することが一般的に受け入れられている.本研究では,干潟の底生無脊椎動物4種(二枚貝アサリ・シオフキ,十脚甲殻類ニホンスナモグリ・ハルマンスナモグリ)の幼稚体を材料とし,餌料ム動物組織間における炭素・窒素安定同位体比濃縮係数を室内飼育実験により求めた.餌料として安定同位体比値が一定の微細藻を与えた.飼育期間内に動物の体重増加は7倍を越え,餌料と同位体比平衡に達した.二枚貝2種の軟体部組織の濃縮係数は炭素で0.6から0.9‰,窒素で3.4から3.6‰であり,上記一般値の範囲内にあった.スナモグリ類2種について測定対象とした組織は,それぞれ酸処理・非処理の体全体・筋肉・外骨格であった.その結果,(1) 非処理外骨格のd13C値は変異が大きい,(2) 酸処理すると外骨格のd13C値 が3.5から6.2‰減る,(3) 体全体の炭素濃縮係数は種間で有意に異なる,(4) 筋肉の炭素・窒素濃縮係数に対する酸処理・非処理の差はわずかである(0.3‰以下),(5) 筋肉の炭素濃縮係数は種間で有意差はなく,2.0から2.2‰であり,一般値の範囲からはずれている,(5) 筋肉の窒素濃縮係数は種間で有意差はなく,3.6から4.0‰であり,一般値の範囲内にある,(6) 体全体の窒素濃縮係数(2.3から3.0‰)は筋肉のそれよりも小さく,外骨格における負値(-3.0から-1.9‰)を反映している,ことが明らかになった.これらの知見は,甲殻類の安定同位体比分析において,外骨格の炭酸カルシウムを酸で除くべきこと,筋肉が最も適切な対象組織であることを示唆している.本研究結果は,濃縮係数は動物の種および組織特異的であり,一般値は普遍的には適用できないことを示している.

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© 2005 日本生態学会
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