抄録
4倍体化が葉の光合成におよぼす影響を解析するために,Phlox drummondii(ハナシノブ科クサキョウチクトウ属)の茎頂をコルヒチン処理し,同質4倍体(autotetraploids)を新規に作成した(C0)。同様にして作成し11代にわたって継代した植物(C11)と,4倍体のもととなった2倍体(D)とを対照として用いた。 4倍体の葉は,2倍体の葉に比べて大きく厚かった。葉面積あたりの葉肉の体積,細胞のサイズ,細胞あたりの葉緑体数,葉肉表面積(細胞間隙に接した葉肉表面積積算値/葉面積),および葉緑体表面積は,C11>C0>Dの順であった。これらの諸要因によって4倍体,特にC11は,葉面積あたりの光合成諸機能が高くなっていた。一方,葉肉細胞壁の厚さは4倍体の方が厚かった。ガス交換/安定同位体同時測定法で評価した細胞間隙から葉緑体までの拡散抵抗を葉面積あたりで表すと,2倍体と4倍体との間に大差は無かった。細胞壁が厚いと拡散抵抗は増加するが,葉肉表面積や葉緑体表面積が大きくCO2が溶け込む面積が大きいので,同じ程度の拡散抵抗値となったと考えられる。 C0の中には,Dと比較して光合成機能が高くないものもあった。C11が優れた性質を示したのは,11代にわたる継代の間に適応が進んだためであると考えられる。4倍体植物は光合成の形態学的な制限を解析するためのよいモデルであることも指摘したい。