日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: H101
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ホーミングの進化:なぜ多くの動物は産まれた生息地にもどって繁殖をするのか?
*巌佐 庸入江 貴博箱山 洋
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抄録

 多くの動物は、未成熟の生育段階では異なる生息地に育った個体がともに集まって生活をするにも関わらず、繁殖期に入ると、産まれた生息地にもどる。これはホーミングと呼ばれる。サケなどの母川回帰は有名だが、鳥類、カエルなど多くの移動能力のある動物に幅広く共通した現象である。本講演では、ホーミング現象が進化する条件を、時間空間的に生息地の質が変動する状況に対する適応としてとらえる。 仮定は:繁殖のための生息地がn個ある。それぞれにおける繁殖成功度はw(i,t)で、場所による違いと年度による変動がある。また各個体は子供のときに臭いなどの手がかりを記憶しておき繁殖期になって自らの出生地である繁殖地を探してもどって繁殖することと、それをせずにランダムに選んだ繁殖地で行うことも可能である。 時空間変動w(i,t)の仮定の仕方によってホーミングが進化する条件を明らかにする。一般に、繁殖地によって子の生存率(つまり親の繁殖成功)が異なり、それが親の定着時には明らかでない状況では、ホーミング率は必ず最大値に進化することが証明できる。この結果は、繁殖成功に密度依存性が働いても成り立つ。現実にホーミングが不完全な動物もいる理由は:[1] 生理機構の限界による制約もしくはホーミングにかかるコスト、 [2] すべての繁殖地が完全に埋まっているためにいずれの生息地での成功度も同一になっている、 [3] 環境が時間変動する、などが考えられる。[3]においては、適応度には時間変動成分と場所依存性とが独立でなく、相互作用が強いことが必要である。 以上の結果から、プランクトンや植物の種子のように受動的に分散する幼生をのぞくと、自ら繁殖地を選択できる動物においては、ホーミング行動は非常に一般的な現象と予想される。

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© 2005 日本生態学会
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