日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: H107
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土壌病害警報シグナルによる植物個体間の利他的戦略
*鈴木 清樹佐々木 顕
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抄録

 作物の病害に対する適応度は、罹病性検定植物の発病率を基に、個体レベルでの抵抗性/感受性などの遺伝的形質によって大きく支配される。しかしながら、獲得抵抗性に見られるような世代内で一様ではない抵抗性の作用形式が、他の宿主個体間において誘導され得る場合は解釈が異なる。その一例として、エチレンを介したストレス応答に着目した。病害などのストレスを受けた植物は速やかに多量のエチレンを合成し、さらにそのエチレンは防御機構を発動するための植物ホルモンとして考えられている。エチレンはその単純な構造から、種々の生物の代謝によって土壌中に普遍的に存在しており、個体や生物種を超えた他感作用も引き起こすことが知られている。 本研究では、植物個体が病害感染のシグナルを近隣の発病個体から受け取り、感染前に耐病性が誘導されることにより枯死を免れることを想定した格子モデルを構築した。遺伝子型としてシグナル因子の生産型/非生産型(+,-)が存在し、生産型の感染個体(+I)から生成されたシグナル因子が、生産型/非生産型双方の未感染個体(+S,-S)を抵抗性個体(+R,-R)へと誘導する。ただし、シグナル生成のコストを考慮し、+Iの枯死率は-Iよりも高いものとする。また、枯死によって生じた空格子には、+S,-S,+R,-Rから各々の遺伝子型の+S,-Sが繁殖する。その結果、空間構造を考慮した格子モデルにおいて、病害警報シグナル生産型はクラスター構造を成長させることで空間内を優先化した。従って、枯死率の高い遺伝形質であっても、他個体の抵抗性を誘導する利他的戦略を採ることで集団に侵入することができる。

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© 2005 日本生態学会
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