日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S3-3
会議情報
ツキノワグマは生き残れるか?西中国山地・細見谷渓畔林からの報告ー
*金井塚 務
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 西中国山地のツキノワグマ個体群(Ursus thibetanus japonicus)は絶滅の恐れのある地域個体群としてレッドデータブックに記載されている孤立個体群である。その個体群保護のために広島、島根、山口の三県は共同で特定鳥獣保護管理計画を策定し、実施に当たっている。しかしながら計画では、個体群保全のための環境復元や資源回復の具体的な方策は棚上げされ、捕獲数の上限値を決めただけという内容にとどまっている。しかも上限を超える捕獲・除去に対して有効な歯止めがないことから、2004年度は220頭を超えるクマが捕殺されるという状況を招いている。一般には、集中豪雨や台風などの異常気象による餌不足が人里へのクマ出没の原因と受け取られているが、実際にはクマの生息密度の低下と生息域の拡大傾向は1970年代初めから続いてきており、この秋にはそれが顕在化しただけに過ぎない。西中国山地におけるツキノワグマ生息域の中核となるとブナ-ミズナラ林は年々減少し、そこでの生物多様性やそれに依存した生産量も減少している。そうした状況の中で、生物の多様性を維持し、生産量も多い細見谷渓畔林は西中国山地のツキノワグマ個体群にとって、最後のより所となる貴重な地域である。細見谷渓畔林を中心としたツキノワグマの食性調査では、サケ科のゴギを捕食している可能性を示唆するような証拠も得られており、こうした水産資源を含む、生物生産性の高い地域の保全がツキノワグマ個体群の保全に極めて重要であることは間違いないであろう。にもかかわらず、細見谷渓畔林を縦貫する林道建設計画が緑資源機構の手で進められ、来年度中にも着工という事態にある。こうした林道建設は、衰退しつつある孤立個体群の絶滅に直結しかねない問題をはらんでいる。生態学者はこうした事態にどのような態度で臨もうとしているのだろうか。

著者関連情報
© 2005 日本生態学会
前の記事 次の記事
feedback
Top