生息パッチの特性(サイズや孤立度)は、局所個体群の遺伝的多様性に影響すると考えられるが、各パッチ特性の相対的な重要性はメタ個体群間で異なるかもしれない。なぜなら、メタ個体群が成立する景観に依存して生息パッチの特性自体が変化するため、各特性が局所個体群の遺伝的多様性に及ぼす影響力も変化すると考えられるためである。本研究では、生息パッチの特性が局所個体群の遺伝的多様性に及ぼす影響はメタ個体群間でどのように異なるか?について検証した。
景観全体の調査が容易な生物としてシオダマリミジンコTigriopus japonicusが挙げられる。本種は飛沫帯の露出岩上に点在するタイドプールに生息し、降雨と波浪によってタイドプール間を移動する。本種のメタ個体群は海岸内の露出岩上のタイドプール(=局所個体群)の集合である。局所個体群の遺伝的多様性は、タイドプールの容積、孤立度およびその高さに影響されると予測できる。なぜなら、高さによって降雨に伴う集水量や波浪の強度は大きく変化するためである。
生息地の空間構造がシオダマリミジンコの局所個体群の遺伝的多様性に及ぼす影響を明らかにするために、北海道南部の9つのメタ個体群からそれぞれ7_から_14個の局所個体群から40_から_43個体を抽出しmtDNAのND2遺伝子の部分配列を決定したのち、局所個体群の遺伝子多様度を算出した。また、測量により各タイドプールの「容積」、「高さ」および「孤立度」(対象のタイドプールが他のタイドプールから輸送される水量を考慮した指標であり、周囲の全タイドプールとの距離と容積の関数)を算出した。得られたデータをもとに統計解析を行い(1)空間構造特性と局所個体群の遺伝的多様性の関連性(2)その関連性におけるメタ個体群間の変異性について議論する。結果については現在解析中であるため本講演にて報告する。