日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: C203
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トホシテントウの生活史と食餌植物のフェノロジー
*今井 長兵衛
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抄録

トホシテントウEpilachna admirabilisは植食性のテントウムシで,海外ではミャンマー,台湾等,日本では九州_から_札幌に分布し,大阪,京都,東京,札幌で行われた生態研究で1化性が確認されている.調査が行われた4地域では,通常の越冬態は老熟幼虫であるが,一部は成虫態で2度目の冬を越す.分布北限の札幌では成虫は夏休眠に入らず,羽化後1カ月頃から産卵をはじめ,幼虫は秋に4(終)齢まで発育する.一方,関東や関西では,有効積算温量からは年2化が十分可能であるにもかかわらず,成虫の夏休眠によって年1化の生活史を維持している.この研究では,本種が1化性を維持しなければならない原因の解明のため,温度以外の要因として寄主植物のフェノロジーに着目し,本種の生活史との関連を検討した.調査場所は京都市左京区京都大学理学部付属植物園(寄主:アマチャズルとキカラスウリ)と生駒山西麓東大阪市枚岡(寄主:アマチャズルとカラスウリ)で,4月からほぼ7日間隔で寄主植物の葉の枚数を数え,枚岡では成虫および1齢_から_4(終)齢幼虫の個体数を調べた.葉は大,中,小に3区分して数え,別に測定した大きさ区分ごとの湿重量の平均値を乗じた値を3区分合計して野外における湿重量を推定した.トホシテントウの寄主はいずれもウリ科多年生つる植物であり,葉量は成虫羽化期である5月にはきわめて小さく,成虫による新芽の食害も加わって,6月末までほとんど増加しなかった.葉量は7月から増加に転じ,9月に最大値に達した後,11月から急激に減少した.葉量の増加と期を一にして,8月半ばから1齢幼虫が現れ,10月末には4齢幼虫数がピークに達した.以上から,関東や関西のトホシテントウ個体群は,成虫期に夏休眠に入ることで,寄主である多年生つる植物のフェノロジー(葉量の季節変化)に同調し,年1化の生活史を維持しているものと解釈される.

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© 2005 日本生態学会
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