日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: C205
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ブナにおけるゴール形成者の生活史とゴールやその葉身の防御レベルとの関係
*徳永 憲治鎌田 直人
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抄録

植物は植食者の食害に対して様々な戦術で防御をしている。葉食性昆虫の食害やゴールの形成によって、タンニンなどのフェノール類の蓄積が増える化学的な誘導防御が起こる。本研究では、タマバエのゴールだけではなく、ゴールが形成された葉の葉身についても物理的・化学的な性質に変化が生じるのかどうか調べた。ブナに形成される数種のタマバエのゴールとその葉身の防御レベルを調べ、ゴール形成者の生活史との関係から種間比較を行った。サンプルは、食害のまったくない当年枝からゴールの形成された葉(以下、「ゴール葉」)、全ての葉にゴールのない別の当年枝から無被害葉(以下、「対照葉」)の2つのカテゴリーを、お互いに近い葉位から採集した。これらを用いて、葉身の物理的性質(LMA)と、葉身とゴールの化学的性質(総フェノール含有率、縮合タンニン含有率)を測定した。ほとんどの種類のゴールにおいて、ゴール葉は対照葉よりもLMAの値が大きく、ゴールが形成された葉は堅くなることが示唆された。これは、ゴール形成者がゴール葉の葉身に物理的な誘導防御を引き起こし、その葉身を葉食者の食害から防いで、ゴール形成者自身の適応度を上げている可能性があると考えた。化学的防御レベルをゴールと葉身で比較した結果、ゴールの種類によってまちまちであったが、葉への着生期間が長いゴールの種類で、化学的防御レベルの高い傾向が認められた。この結果は、長期間葉にとどまるゴールに対して植物が強い防御を行っているという解釈と、長期間葉にとどまるゴール形成者が植物に強い防御反応を起こさせて葉食者から身を守っているという解釈の両方が考えられた。以上のように植食者間には、ブナの葉の誘導防御を介した間接効果が働いている可能性が考えられた。

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© 2005 日本生態学会
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