日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S4-3
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農業生態系における総合的生物多様性管理(IBM)にむけて
*桐谷 圭治
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抄録

21世紀の農業では、農業生態系の本来の目的である農産物の生産とともに農地管理をつうじて、里山特有の生物多様性を維持、保全することが求められる。IBM(総合的生物多様性管理)は害虫管理と生物多様性の保全の両立を目指した理論である。そのためには、短期的と長期的、局所的と広域的など両極の視点から農業生態系をながめる必要がある。農業分野では、実験は短期的、局所的なものに限られ「大規模長期操作実験」というものはない。しかしその視野にたって、過去を振る返ることは有用だと思われる。日本の稲作の歴史は米の増産につきる。気象、病虫害、肥料、労働との戦いである。戦後米の増産のため時代を追って各種の農業資材、機械、栽培様式が導入された。保温折衷苗代、早期栽培、穂数型品種、BHC 粒剤、稲藁のマルチ使用、刈取期の早期化、珪酸カリの施用、移植や収穫の機械化、稲藁の焼却や裁断、農薬の苗箱処理などの技術は米の増産の目的を達成し、3割の減反政策が実施されるまでになった。稲の最大の害虫、ニカメイガの防除を目的にした技術は農薬だけであったにもかかわらず、この過程でかっての大害虫は潜在的害虫になった。これらの事実は、BHCで害虫の被害は防げても、個体群密度の管理はより総合的な環境管理の問題であること。大害虫の低密度化は広域的かつ長期間を要することが明らかになった。また増産技術が必ずしも害虫問題を誘発重大化するとは限らず、両立する可能性も示された。他方ではBHCによる潜在害虫のリサージェンス、抵抗性害虫の出現、ただの虫の激減、食物や環境の農薬汚染をもたらした。これは、抵抗性品種や天敵を軽視した手段万能主義がもたらした結果である。同時に総合的かつ横断的な視野を持った戦略家が必要なことを示唆している。

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© 2005 日本生態学会
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