日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: G205
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最適形質のボトムアップ・コントロール:資源分配トレードオフと生態化学量論
*吉田 丈人
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抄録

ある生物において限られた資源が二つ以上の形質に分配されるとき、その形質間にトレードオフが期待される。資源は複数の元素あるいは要素で構成されるという事実にも関わらず、過去のトレードオフのモデルは、単一の通貨(例えば、エネルギー、炭素)を仮定してきた。これらのモデルは、形質間に直線的な負の相関関係をしばしば予測してきた。一方、例えば生物間競争の理論など、トレードオフが重要な働きをする理論的研究の多くは、裏付けとなる生物学的メカニズムを特定せずに、直線的あるいは非線形といった様々なトレードオフ曲線を仮定してきた。これは、実際の生物でトレードオフの形がよくわかっていないことに大きく起因する。
 本研究は、二つの資源構成元素(窒素と炭素)が二つの形質に分配されるトレードオフのモデルを提案し、生態化学量論がトレードオフの形を決める上で重要であることを示す。このモデルのトレードオフ曲線は、資源と形質それぞれの元素組成(stoichiometry)に依存して、様々な形(線形、非線形)を見せる。さらに、資源の元素組成がことなる環境において、各形質への最適な資源分配を予測するために、生態化学量論にもとづくトレードオフと、適応度への各形質の貢献を表した適応度関数を結びつけた新しい理論的枠組みを提案する。このモデルは、適応度関数が一定であるにも関わらず(適応度への各形質あたりの貢献が変わらなくても)、資源と形質の元素組成に依存して、形質の最適な組合せが大きく変化することを示す。本研究は、最適形質を予測する理論が、それらの形質がどれくらい適応度に貢献するかという一面だけでなく、ことなる資源構成元素がどのように形質に分配されるかという"ボトムアップ"の面も考慮に入れる必要があることを示している。

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© 2005 日本生態学会
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