日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: G209
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異常乾燥気象が熱帯雨林の動態に及ぼす影響:スマトラでの長期継続観測に基づく評価
*米田 健水永 博己西村 千藤井 伸二ムクタール エリザル堀田 満荻野 和彦
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抄録

スマトラ中部の熱帯雨林において1981年から2004年までの間に実施した16回の現地調査結果に基づき,1990年代以降に当該地で多発している異常乾燥が森林の動態に及ぼす影響を評価する.林分の基底面積(BA)は,調査前半の10年間においてはほぼ直線的に増大したが,後半10年では一定値を保つ傾向を示した.異常乾燥の発生件数の多少から分けた3期間の間で林木の生長特性(成長速度,枯死速度,新規加入速度)を比較した結果,それら生長特性が異常乾燥に大きく影響されていることを明らかにすることができた.BAの変化は,調査林の主要24属の構成にも大きく影響した.すなわち,肥大成長速度が全体的に高い軟材性の樹種は22年間でBA優占度が高まり,成長速度が低い樹種が多い硬材性樹種の優占度は減少した.これは,異常乾燥により増大した林冠木の枯死・落葉による林内環境の変化が,後継樹間の競争を高めた結果と推察する.後半10年間の林分BAは一定となる傾向を示したが,その構成において軟材性樹種がしだいに優占度を高めていることから,それらの材密度や樹高特性を考慮すると,質量としての生体量はしだいに減少しつつあると評価できる.対象とした調査林は,スマトラの西海岸に近い標高600mの丘陵帯に分布する雨林であるが,同様な現象が東海岸の雨林においても発生していることを確認できた.また,本調査林域内での高標高帯の雨林においても,同様な傾向を示唆する結果を得ている.これらのことは,近年の異常乾燥がスマトラ島のかなり広域な雨林において,熱帯雨林の後退現象を誘発していることを示唆している.

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© 2005 日本生態学会
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