鳥取砂丘では1950年代からクロマツ等を植栽し防砂林としてきたが、後に防砂林帯の背後に位置する砂丘自体に草本類の侵入といった影響が現れてきたため、天然記念物・観光資源である砂丘を保護する目的で防砂林の一部除去が行われた。しかし、防砂林除去後も砂丘の草原化の進行が問題となっており、1991年からは除草も行われている。 先行研究により、草本種の砂丘への侵入と定着には砂の移動が重要な環境要因として働き、適度な砂の堆積が必要であることが明らかにされている。しかし、砂丘の草原化に関わる植物の養分利用に関する特性は未解明で、窒素に関して非常に貧栄養であるとされる砂丘において、植物が侵入してくる機構には不明な点が残されている。さらに、砂丘の砂中の総炭素・窒素現存量は非常に小さいとされているが、植物が利用可能な無機態窒素に関しては未解明である。本研究では、砂丘における植物の窒素源を明らかにするため、砂丘の砂の窒素無機化特性と植物の窒素利用に関する生理的特性の把握を試みた。 まず、砂丘の砂の窒素無機化特性については、汀線からの距離と表層からの深度が砂中の無機態窒素現存量、窒素無機化・硝化速度、含水率、pH等に及ぼす影響を調査した。植物の窒素利用に関しては、砂丘に自生する植物8種(ウンラン、カワラヨモギ、ケカモノハシ、コウボウムギ、ネコノシタ、ハマニガナ、ハマヒルガオ、ハマゴウ)を対象に、硝酸態窒素利用の指標として硝酸還元酵素活性を測定し、植物の利用している窒素源について窒素の形態別の把握を試みた。今回の発表では、これらの結果を比較することによって、砂丘の草原化と草本を中心とする砂丘生態系が維持される機構について窒素養分循環の観点から考察を加える。