森林において伐採を行うと,資源量に対する植物個体間の競争は緩和されるが,風当たりが強くなって水ストレスを受ける場合もあるなど,林内環境の変化により残存木が影響を受けることが予想される.伐採による影響を把握することは,環境変動に対する樹木の応答を知る上で必要である. 本研究では,京都市にある京都大学上賀茂試験地内のアカマツ枯死木の伐採以外は手入れがされずにヒノキが優占種となっている二次林において,小面積の伐採がヒノキ落葉の季節性と窒素濃度に及ぼす影響を評価することを目的とした.2000年1月に林内の斜面上部,中部,下部それぞれで小面積の皆伐を行い,伐採区と対照区で3年間リターフォールを採取した.累積落葉量が落葉開始から年間落葉量の50%に達するまでの日数(落葉期間)を年ごとにロジスティック式から求めた.落葉期間は対照区,伐採区ともに斜面下部ほど長い傾向があった.伐採区の落葉期間は対照区に比べて斜面上部で短くなり,中部と下部では長くなった.3年間のヒノキ落葉の平均窒素濃度は対照区の斜面上部,中部,下部で4.8,4.3,6.4mg/g,伐採区では4.3,4.6,7.2mg/gであった.落葉期間および落葉の窒素濃度ともに,伐採区と対照区での違いが斜面下部ほど大きく,上部と中部では小さかった.落葉期間と窒素濃度には有意な正の相関関係があり,短期間に葉を落とすほど落葉の窒素濃度が低い傾向がみられた.斜面下部では落葉期間が増大して落葉前の窒素の引き戻しが少なくなったために落葉の窒素濃度が増加したと考えられた.ヒノキは伐採による環境変化に対して落葉の季節性や窒素濃度を変化させており,その変化の仕方は斜面位置による立地条件の違いによって異なると考えられた.