樹木は土壌からの窒素などの養分供給量や樹木自身の要求量に応じて、細根など地下部への配分を変化させることにより、生育の制限となる養分を効率的に吸収する。森林の成立に伴う物質循環様式の変化は、養分供給量に影響する一方で、樹木の要求量も成長速度や葉量などの違いに応じて変化すると考えられる。森林の成立に伴い地下部への配分は様々な変化を示すと考えられるが、これまで地上部の炭素・窒素蓄積量の変化に関しては、多くの研究例があるが、地下部については十分な情報がないのが現状である。そこで本研究では、森林の成立に伴う地上部・地下部の炭素・窒素蓄積量および地上/地下部比や葉/細根比の変化を明らかにした。 調査は、小集水域単位での輪伐を行っているスギ人工林で行った。皆伐植栽後4年、14年、29年、40年、88年経過した森林に20m×20mの調査区を各2個設置し、毎木調査を行い、スギの地上(幹・枝・葉)・地下部(粗根)バイオマスをアロメトリー式により推定した。また、細根バイオマスについては、表層0-50cmの土壌を各林齢から採取し、推定した。また、土壌窒素供給量の指標として、現地培養による土壌の窒素無機化速度を測定した。 土壌の窒素無機化速度は、伐採後減少し29年生の森林で最も小さくなり再び増加した。また地上部・地下部の炭素・窒素蓄積速度のピークは、器官ごとに多少異なるが20-30年ごろに見られた。一方で、地上部/地下部比は林齢とともに増加し、葉/細根比は14年生で最小となり、その後林齢とともに増加した。以上の結果から窒素要求量の大きい成長のピークに、土壌条件も悪化していると考えられるが、地上部/地下部比や葉/細根比は、供給量や要求量とは異なるパターンを示した。