日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S6-4
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琉球列島のハゼ亜目の群集形成過程
*向井 貴彦
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抄録

琉球列島は日本列島南西部に連なる亜熱帯島嶼であり,発達したマングローブ林やその周辺の干潟・流入河川に多種多様な汽水魚が分布している.特に,小型の底性魚類であるハゼ亜目魚類の種数は多く,塩分・底質などの細かな違いを利用して各種が棲み分けている.こうしたハゼ亜目魚類の中には日本列島と琉球列島の間で地理的に分化しているものがいくつも知られており,色斑などの違いから日本列島と琉球列島の個体群が別種とされていたり,同種とされていても成熟サイズなどが違うとされている. そこで日本列島から琉球列島の汽水域に生息するハゼ亜目魚類について両地域間での遺伝的分化をミトコンドリアDNAの部分塩基配列を元に比較した.予備的比較を含めて16種(種群)について検討したところ,ほとんど遺伝的な違いがないと思われたものは8種であり,それらは東南アジアに広く分布する種であった.残りの8種は明瞭な,あるいは多少の遺伝的分化が観察され,それらは東アジアに分布が限定されている種であった.分散能力の違いが分布域の広さと関連するならば,日本列島と琉球列島の間で地理的に隔離され遺伝的に分化している種は,相対的に分散能力の弱い種であることが示唆される. さらに,遺伝的分化が見られた種について分岐年代を試算したところと,分岐の古いものは約300万年前に日本列島と琉球列島の間で分化し,中程度のものは約100万年前,起源の新しいものは数十万年前以降に日本列島と琉球列島の間で隔離されるようになったと推測された.このことは,両地域間で汽水性のハゼ亜目魚類が分布を広げるチャンスが複数回存在したことと,それにもかかわらずいくつかの種は初期の地理的隔離以降,それぞれの環境で固有の地域集団として存在し続けてきたことが示唆される.

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© 2005 日本生態学会
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