日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P1-034
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森林から流出するNO3-濃度の形成要因
*福島 慶太郎舘野 隆之輔中野 孝教大手 信人徳地 直子
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抄録

 森林生態系において窒素は植物と土壌の間で効率よく循環され、系外への流出量は一般的に少ない。しかし皆伐など大規模な攪乱が加わるとその内部循環が崩壊して窒素が大量に流出し、地力の低下や下流域への負荷につながる。伐採による窒素循環の影響は多くの研究例があるが、その後の窒素循環の回復過程を明らかにした研究は少ない。持続的な森林経営のためにも伐採の影響に加え、森林の回復過程を物質循環の観点から把握することは重要である。そこで本研究では林齢に注目して、植物_-_土壌系の内部循環の発達と流出する窒素の主要形態であるNO3-との関係を明らかにし、さらに林齢以外に地形的、地質的要因を加えて重回帰分析を行いNO3-濃度を形成する要因を明らかにした。
 調査地は集水域単位で伐期約90年の輪伐を行うスギ・ヒノキ人工林で、林齢が1-88年まで並んでいる。そのうち33の集水域で渓流水のNO3-濃度を測定した。また4、14、29、40、88年生の5集水域内に土壌断面を作成し、土壌N動態を算出した。地形的要因として各集水域の標高、面積、スギの面積比率を地図上で求めた。さらに渓流水のSr同位体比を測定し、地質的要因も考慮した。
 NO3-濃度の形成要因は、20年生を境に大きく異なった。土壌N動態と渓流水のNO3-濃度から、20年生以前では土壌表層の硝化速度と植物の吸収がNO3-流出を規定すると考えられた。一方20年生以降は地質や標高がNO3-濃度に影響を与えていた。土壌N動態からは、29-40年生で植生のN要求量が土壌のN供給量を上回り、植物の成長が頭打ちとなる時期と一致することが示された。88年生では土壌のN供給量が再び増大し、NO3-の流出が増加する可能性が示唆された。

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© 2005 日本生態学会
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