日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: P1-069
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ユキワリソウの土壌シードバンクの空間的遺伝構造
*下野 綾子上野 真義津村 義彦鷲谷 いづみ
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抄録

種子散布すなわち種子期における個体の移動は、個体群の空間構造を作り出す主要なプロセスである。一方、種子期は土壌中で何年も生き続ける永続的土壌シードバンクによって時間的分散が可能であり、過去の散布パターンが平均化され、空間構造が緩和されることも考えうる。これらの可能性を検討するために、土壌シードバンクと地上個体群の空間的遺伝構造の相互作用を分析した。調査はユキワリソウ(サクラソウ科)の個体群を対象に、長野県浅間山の亜高山帯の植被のまばらな湿地草原で行った。ユキワリソウは小型のロゼット型植物で、果実や種子は特別な散布機構を持たないことから、種子の空間的散布距離は限られていると考えられる。2003年4月の実生出現前に2.5×5.5 mのコドラートを設け、このコドラートを0.5mの格子状に分割し、その交点40点から直径5cm・深さ5cmの円柱形の土壌を採集した。表層(0-1cm)および下層(1-5cm)にわけ、実生発生法により土壌中の生存種子数を推定した。得られた実生とコドラートに含まれる開花ラメットを対象にマイクロサテライトマーカー10座の遺伝子型を決定し、個体間距離に応じた遺伝子頻度の相関の強さの指数としてMoran’s Iを算出した。表層から採集した土壌シードバンク(SSB)と開花個体との間の空間的遺伝構造は、近傍の個体間で正の相関が見られたのに対し、下層から採集した土壌シードバンク(DSB)と開花個体との間には、明瞭な空間的遺伝構造は見られなかった。このことから、SSBは前年の散布種子が多くを占める一時的シードバンクとしての性格が強く、DSBは複数世代の散布種子を蓄積した永続的要素を反映するものであること、また時間的分散が空間的遺伝構造を弱める作用をもたらすことが示唆された。

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© 2005 日本生態学会
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