日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S9-3
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個体・個体群における光馴化の生態学的効果
*野田 響
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抄録

 植物において、取り巻く環境条件に応じてひとつの遺伝子型が作る表現型のパターン(reaction norm)は、ある環境下における物質生産量を決定し、適応度を左右する。多数の先行研究によりreaction normは種間あるいは種内でも異なる例が示されている。演者はクローン植物サクラソウPrimula sieboldiiの馴化特性について研究を行ってきた。サクラソウは近年、自生地の開発とそれに伴う個体群の孤立分断化により激減している。北海道日高地方においては、比較的大きな自生地が現存しており、広葉落葉樹林の林床から明るい草原までの幅広い光環境に生育している。 日高地方のサクラソウについて個葉・個体の生理生態的特性と生育光環境との関係を調べたところ、その結果は個葉ガス交換特性において顕著だった。すなわち強光条件ほど最大光合成速度が高く、弱光条件ほど暗呼吸速度が低いという馴化が認められた。この馴化の結果、自生地では生育が見られないほどの暗い条件でさえラメットの相対成長率(RGR)はプラスであり、無性芽形成も見られた。さらに光馴化特性におけるジェネット間変異の有無を検討するため、日高地方の自生地内で生育光条件の異なる3ジェネットを比較した。自生地から採取して1年目のラメットは、ジェネットごとに最大光合成速度における光馴化の幅が大きく異なった。ところが翌年、これらのラメットからクローン成長で生じたラメットで比較したところ、ジェネット間変異は認められなかった。実験1年目に見られた変異はラメットの前歴(前年の生育環境の影響)を反映したものであろう。 クローン植物のジェネットは長期間生存し、多数のラメットで広い空間を占めるため、時間的・空間的環境変動を経験しやすい。そのため、サクラソウの生活様式にはジェネット間変異よりもラメットの馴化が重要であると考えられる。

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© 2005 日本生態学会
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