日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S11-3
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食農・暮らしの中の絶滅危惧と生態系保全
*日鷹 一雅
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抄録

 広義のAgroecologyは人間(農家と消費者)を含めて生態学を捕らえようという大胆かつ包括的な試みでもあると言う。我が国の農業生態系を語るとき、ecology of food systemではなく、水田の生物多様性保全への政策導入議論(いわゆる環境支払い制度)に代表される様に、前者よりもecology of biological system という観点が強く打ち出されている感は否めない。とくに日本生態学会では、Agroecology is ecology of agro-biodiversity と標榜しているように受けとられそうである。農生態系における生物多様性保全や自然再生を進めるにも、農生態学の本場で再認識され出しているような「食のシステム」の問題は、無視できないのではないかという疑問をここで呈したい。そこで、ここでは日本的に「農」に関わる二つのキーワードを取り上げて、それらと生態系や生物多様性保全の関係をメジャーな事例を交えて考えてみたいと思う。第1に、我が国で最近社会的キーワードである「食農」(Food and Agriculture)である。そして第2は、今回の里山保全の講演者に関わる「暮らし(livelihoods)」である。まず「食農」における問題点は、以下の様に要約できる。1)農:農業の化石エネルギー依存度と海内外食料輸出入量の増大2)食:EF増大型食生活(肉食油物嗜好)と生態系攪乱型栽培種の社会的選択これらの動向は、食料の不足と分配の不均等を拡大させる意味で地球レベルの農業問題と、主に農業が生業として成立不能であることによる農業・農村持続性の低下という地域レベルの農業問題の両方を深刻化させている。さらに生態系や生物多様性への攪乱に、我々の食農や暮らしの実態が結びつきうる場合も生じてしまっていることを考察する。現在の我々日本人の食農と暮らしの実態からは、生態系保全や生物多様性保全に結びつかない関係性が見えてくる。それは、減農薬・有機農業や農村生態工学で展開すれば、生物多様性や生態系が保全できるなどは思えない深刻な状況である。今一度、食農や暮らしを伝統文化まで掘り下げて、絶滅危惧の技術や技能を保全・再生する必要がある。

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© 2005 日本生態学会
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