日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S13-4
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鱗翅目幼虫の擬態紋様の可塑的制御
*藤原 晴彦二橋 亮岡本 俊三田 和英
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抄録

擬態は古くから生態学や行動学の対象として研究されてきたが、その基盤となる分子メカニズムはほとんど知られていない。通常、擬態は単純な形質発現でなく、形態・紋様・行動などが複雑に絡み合った複合的現象として成立している。演者らは、分子レベルでの擬態研究の切り口を明確にするために昆虫体表の紋様形成に着目した。紋様形成は、数多くの動植物で情報発信者が受信者を撹乱する戦略として幅広く使われ、中でも捕食対象となりやすい昆虫の幼虫は多様な色彩に彩られた紋様を持つ。例えば、アゲハの幼虫は4令時までは黒と白の特徴的な紋様によって鳥のフンに擬態し鳥の捕食を避けているといわれるが、終令幼虫になると背景の緑に近い紋様に切り替わる。アゲハの表皮が形成されるのは脱皮期であり、3齢脱皮期と4齢脱皮期の皮膚のパターン形成がホルモンにより切り替わると予測された。実際に黒色メラニンによる皮膚パターン形成はエクダイソンとJHのバランスによりその決定が切り替わることが示された。また、メラニン合成系酵素の関連遺伝子のTH, DDC, Yellow, Ebonyなどの発現解析から、各酵素の発現強度の違いが黒色の紋様パターンの違いを生み出し、また眼状紋の赤色領域などを形成することが示された。また、3齢脱皮期と4齢脱皮期皮膚で発現しているmRNAのEST比較解析を行うと、5齢時の緑色を発色するインセクトシアニンが4眠脱皮期にのみ発現しているなど、網羅的解析が有効であることが示されつつある。発生段階で紋様パターンを可塑的に切り替えるアゲハ幼虫の例とともに、ゲノムプロジェクトがほぼ完了したカイコの20を超える幼虫斑紋の変異系統についての研究も併せて紹介し、擬態紋様の分子メカニズムにどこまで迫れるかについて議論したい。

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© 2005 日本生態学会
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