日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S14-1
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順応的管理が破壊する多種共存状態
*松田 裕之
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抄録

 不確実な情報に基づき資源を持続的に利用する戦略として,順応的管理が注目されている.順応的管理とは,継続監視によって資源動態を把握し,変動に柔軟に対応する方策である.順応的管理によって,予測が難しい,非定常で変動が大きな資源にも対応できる.種間相互作用を考慮すると,MSY理論は大きな修正が必要になる.たとえばイワシとマグロのように,被食者・捕食者からなる系を考える.被食者の定常資源量は,捕食者がいる限り,被食者への漁獲努力量にほとんどよらない.この場合,被食者の資源量を継続監視し,それに応じて漁獲圧をフィードバック管理しても,被食者への漁業による捕食者の絶滅を避けることはできない.フィードバック管理に2つの方式を考える.一つは現存量と目標資源量の差に応じて漁獲圧を増減させるもので,積分型と呼ぶ.もう一つは漁獲圧を現存量の関数とするもので,これは現在多くの資源管理(許容漁獲量制度)で採用されているもので,TAC管理型と呼ぶことにする.積分型の場合,もとの被食者・捕食者系が安定平衡点を持つ場合,漁業と捕食者のいずれかが「絶滅」する.平衡点が不安定で周期変動する場合には,やはりどちらかが絶滅するか,長周期の不規則な変動を示すことが多い.TAC管理型の場合,本来適切な漁獲圧をかけていれば漁業と捕食者は共存する.これは順応的管理でなくても同じである.高水準期に過剰な漁獲圧をかける場合には,やはり漁業と捕食者の共存は困難である.いずれにしても,順応的管理はうまく機能しない.より複雑な多種系においても,順応的管理によって漁獲対象種の資源量は維持することができても,他種を絶滅させる場合が生じる.このように,フィードバック管理と言えども万能ではない.やはり,ある程度生態系の知見を得てから管理方策を練る必要があり,順応的管理はつねに監視と検証と見直しを担保として成り立つものである.

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© 2005 日本生態学会
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