日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: S17-9
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達古武沼の現状診断と再生シナリオ
*高村 典子若菜 勇中村 太士
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抄録

釧路湿原東部に位置する3湖沼では、環境の劣化が顕在化している。我々は、環境省釧路湿原自然再生事業の一環として、2003年7月から約2年間、まず達古武沼とその流域を対象に、環境劣化の現状把握と原因究明を行った。達古武沼では1992年に沼の約8割の面積を覆っていた沈水植物群落が大幅に後退し、現在は、沼南の達古武川の流入部付近を中心に東西の帯状に残っているのみである。浮葉植物としてはヒシが圧倒的に多く、沼の西南にネムロコウホネがまばらにある。夏には達古武川の流入部付近を除く沼全面にアオコ(Anabaena)が大発生する。現在の達古武沼のプランクトン、底生動物、魚類の分布は、この沈水植物群落に大きく依存して分布している。特に、希少動物は残存植生に大きく依存して生息しているため、今後沈水植物群落が消失するようなことが起これば、それに伴い多くの在来の動物群集が生息場を失うと考えられる。沼中央の夏の水質は1996年まで全窒素量が0.4-0.9mg/L、全リン量が0.02-0.09mg/L、クロロフィルa量が2-11μg/Lであったが、2004年は順に3.5mg/L、0.35mg/L、340-400μg/Lと高い値を示し、急激な富栄養化が起こっている。達古武沼では、今、まさに生態系のカタストロフ・レジームシフトが起きている。そのため、生態系回復のために早急な措置が必要とされている。生態系の劣化を引き起こした原因は、近年の沼への土砂流入量や河川からの栄養塩負荷量の増加が考えられる。現在の栄養塩負荷は、過去に湿地へ排出蓄積された畜産排水が降雨時に流出している可能性が大きい。また、沼周辺部に分布している外来ザリガニ(Pacifastacus leniusculus)が、沈水植物群落減少の一因となっている可能性も大きい。本シンポジウムでは、今後どのような自然再生を行うべきか、達古武沼の再生へのシナリオについて議論する。

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© 2005 日本生態学会
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