われわれは休耕田のバッタ群集に対する捕食者の非致死的効果について研究してきた。本講演では、休耕田の代表的なバッタであるコバネイナゴに対する鳥の非致死的効果、すなわち自切について、その主犯を推定する。これまで、ウズラ、カマキリ、クモ、カエルなどをモデル捕食者とした室内捕食実験の結果、ウズラのみがコバネイナゴの自切を引き起こすことが確認された。しかし、ウズラは調査地の休耕田には棲息せず、自然状態でどの鳥が自切を引き起こしているのかについては全くわかっていない。そこで、飼育条件下にある野鳥を用いた捕食実験と捕食行動の観察、およびフィールドでの鳥類群集調査によって自切を引き起こす捕食者を推定した。捕食行動観察の結果、トビやカラスといった大型の動物食・雑食の鳥は餌をむしり食べるので自切を起こさず、逆にコガラやスズメなどの小型の昆虫食・雑食の鳥は餌としてサイズの大きすぎるコバネイナゴを襲わず、中型の鳥だけがイナゴを襲い自切を引き起こした。さらに捕食様式から、中型でも動物食スペシャリストのモズなどは自切を引き起こしにくく、中型でジェネラリストの鳥が主犯と推定された。これら中型の鳥は自切させた後脚は食べるがイナゴ本体を食べることはめったにできなかった。一方、休耕田における鳥群集の調査の結果、イナゴの自切を引き起こす中型の鳥は、個体数が多くジェネラリストのホオジロか、同じく個体数が多く昆虫食だが耕地のスペシャリストではないセグロセキレイと推定された。これらの結果と、鳥類の食性に関する文献データを併せて評価し、結果の妥当性について考察する。