日本生態学会大会講演要旨集
第52回日本生態学会大会 大阪大会
セッションID: B103
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ニホンジカの脂肪蓄積における暖地と寒地の比較
*高槻 成紀田戸 裕之
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抄録

日本列島は南北に細長いためにかなり大きな温度差があり,植生も多様である.ニホンジカはこの広い範囲に生息するため南北で生活がかなり違う.冷温帯落葉樹林では冬に積雪があり,シカの食物は夏と冬で大きく異なるが,暖温帯常緑樹林では冬にもある程度の常緑植物があり,食物供給の季節差は比較的小さい.このことはシカの越冬の条件に大きな違いをもたらすものと予想される.一方,シカは一夫多妻性の繁殖様式をもつため,秋の交尾期はオスにとって熾烈な戦いの季節となる.そのためにオスは夏のあいだに脂肪を蓄積する.前者は「食料環境」,後者は「繁殖環境」といえるだろう. 岩手県五葉山のシカと山口県のシカの蓄積脂肪を調べたところ,以下のような結果が得られた.数値はライニー腎脂肪指数である.1) メス成獣は山口では一年中40_%_前後を推移したが,岩手では9月以降急増し,12月に140_%_になったあと激減した.2) 子ジカもメスと似ていたが,指数値がやや小さかった.3) オス成獣は山口でも夏に増加し8月に最高値の120_%_となり10月には40_%_ほどになってそのまま低い値を維持して春を迎えた.岩手では7,8月にデータはないが9月に110_%_となったあと11月に30_%_ほどにまで低下した.いずれの場所でも交尾期に減少するということが共通していた.4) 若いオスはむしろメス成獣に似ており,山口では一年中40_%_前後であったが,岩手では11,12月に90_%_程度のなだらかなピークをもった.これらの結果はニホンジカの脂肪蓄積には基本的に食料供給の違いに応じた明瞭な南北さがあること,しかしそれはメスと若い個体に限られており,オス成獣にとっては温暖な地方でも交尾期のために夏に脂肪を蓄積するという「繁殖環境」が重要な意味をもつことを示唆している.takasesika

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