抄録
日本生物科学研究所付属実験動物研究所で維持している近交系APG系の全兄妹交配61代において, 振戦を伴う黒毛色のハムスタ (black tremorと命名) が出現した。このミュータント形質の遺伝子分析のために毛色を支配しているE, B両座位が異なる4近交系およびそれらと同じ毛色を有する個体へblack tremor遺伝子を導入して育成した4ミュタント系を用い, 種々の交配を行うとともにblack tremorの特性を検索した。得られた結果は次のように要約される。1.black tremorはEおよびB両座位における突然変異ではない。2.black tremorは常染色体性の単一劣性遺伝子“bt”により支配され, 毛色の黒色化と振戦両形質は“bt”遺伝子の多面発現と考えられる。3.毛色の黒色化発現にはE座位に少なくとも1つのE遺伝子が必要である。このためee (クリーム色) 個体では毛色の黒色化は発現せずクリーム色のままで, 振戦のみが発現する。4毛色の黒色化の程度はEE個体とEe個体とで異なり, 前者は後者より黒色化が激しい。5.振戦の原因と思われる中枢神経系のミエリン形成遅延症およびメラニンの生合成過程の研究用モデル動物としての可能性が考察された。