ファルマシア
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セミナー
緑内障治療薬タフルプロストの開発
松村 靖
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2014 年 50 巻 1 号 p. 39-43

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抄録

フッ素は他の元素には見られない独特の物理化学的性質を有するため,生体内での吸収や代謝に与える効果に加えて,薬理作用の発現や増強に及ぼす影響が注目されている.医薬や農薬の分野において開発される含フッ素化合物の増加には,目を見張るものがある.今やフッ素による構造修飾は,ドラッグデザインの重要な手段の1つと言えるかもしれない.しかし一方で,構造修飾の手法は芳香環部位へのフッ素原子やCF3基の導入がほとんどであり,化合物の主鎖となる骨格や脂肪族置換基にフッ素を導入した例は限られている.また,薬物が受容体に結合するときのフッ素と受容体アミノ酸残基との直接的な相互作用やフッ素の立体電子的効果については,いまだによく分かっていない.
さて,読者の皆様は,研究対象の化合物の構造を眺めていて,ふと「ここにフッ素を入れたら,面白い活性や物性が出るかもしれないなあ…」などと思われたことはないだろうか.
我々は1980年頃より,プロスタグランジン(PG)などの生理活性物質にフッ素を導入した誘導体を合成し,フッ素が生理活性や物性に及ぼす効果について研究を行ってきた.何かフッ素の特徴を生かしたユニークなドラッグデザインができないだろうかと考えるとき,どのようにして目指す位置に選択的にフッ素を導入するかが常に問題となり,新たな合成法の開発が鍵となることを痛感してきた.
本稿では,主鎖にジフルオロメチレン(-CF2-)骨格を持つPG誘導体について,フッ素の効果に焦点を絞って,ドラッグデザインとフッ素導入法を中心に概説し,緑内障治療薬タフルプロスト(tafluprost)の誕生に至る経緯を交えて紹介したい.

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© 2014 The Pharmaceutical Society of Japan
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