2014 年 50 巻 1 号 p. 62
一般にイリジウム触媒を用いるアリル位置換反応では,アリルエステル等がイリジウムに酸化的付加し,生じた求電子的なπ-アリルイリジウム種が置換基を有するアリル炭素上で求核剤と反応するため,分枝成績体が選択的に得られる.パラジウム触媒を用いる辻-Trost型反応では直鎖状の生成物を生じるため,相補的な反応として有機合成化学に幅広く用いられてきた.一方,1997年の武内らによる初のイリジウム触媒によるアリル位置換反応の開発を契機として多くの化学者がその不斉触媒化に取り組んだ.その結果,不斉配位子としてホスホロアミダイトが極めて有効に機能するということがHartwig,Carreiraらによって報告され,様々な求核剤の使用が可能となった.特にCarreiraによって開発されたリン,オレフィン二座配位型のホスホロアミダイトL-イリジウム錯体は,Brønsted酸等と組み合わせることによって,無保護の単純なアリルアルコールからでもアリル位置換反応が効率良く進行する.