ファルマシア
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最前線
DNAメチル化・脱メチル化を突き止めるために新たな化学反応を探す
岡本 晃充
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2014 年 50 巻 11 号 p. 1112-1116

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抄録

エピジェネティクス機構は,DNA配列を変えることなしに遺伝子発現を制御する機構であり,分化,発生,インプリンティング,X染色体不活性化などの生命現象に深く関与する.この機構が破たんすれば,がん,肥満,発達障害,神経変性疾患,周産期疾患などの疾患につながると考えられている.エピジェネティクス機構では様々な方法で遺伝子に印が付けられるわけだが,その最も代表的なものがDNAメチル化である.DNAメチル化は,主として,シトシンの5位の炭素原子にメチル基が付加されることを指す(図1).DNAメチルトランスフェラーゼ(DNA methyltransferase:DNMT)3AやDNMT3BによってDNAが新規にメチル化され,一方,DNMT1が半保存的複製後にメチル化パターンを維持する役目を果たす.これらの酵素は,S-アデノシルメチオニンをメチル基ドナーとしてCpG配列をメチル化する.
一方,いったんメチル化を受けたとしても,そのメチル基が失われること(脱メチル化)もある.それは,複製過程における受動的なDNA脱メチル化のほかに,能動的なDNA脱メチル化過程もある.2009年になると,TET(Ten‐eleven translocation)プロテインと呼ばれる水酸化酵素が5-メチルシトシン(5mC)を酸化し,5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmC),5-ホルミルシトシン(5fC),5-カルボキシルシトシン(5caC)を生成することが報告された.これらの酸化シトシンはチミンDNAグリコシラーゼ(thymine DNA glycosylase:TDG)によって除去され,修復されることにより脱メチル化過程が進むと言われている.
DNAメチル化もしくは脱メチル化がどのシトシンで,また,どの細胞でどのくらいの確率で起こっているかを明確にできれば,細胞機能の決定に対するメチル化の寄与を知ることができる.しかし,5mCや5hmCなどを未修飾のシトシンから区別すること,特に,それらをDNA配列の中の特定の箇所において正確に検出することは並大抵ではない.シトシンに結合したメチル基は,巨大なDNA二重らせん構造に比べると,すっかり埋没するくらい極めて小さい.巨大構造の中のメチル基やヒドロキシメチル基を見つけ出すには,それらを認識するタンパク質を使うのも良いかもしれないが,むしろ周辺の配列や環境に左右されずに,ただその官能基を目指して選択的に反応する化学反応を開発するのが効果的ではないだろうか?

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© 2014 The Pharmaceutical Society of Japan
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